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判例・実務情報

【最高裁、特許】 医薬品特許の存続期間延長登録出願に関する最高裁判決(ベバシズマブ事件)



Date.2015年11月24日

平成271117日 最高裁第三小法廷 ベバシズマブ事件(平成26(行ヒ)356(原審:知財高裁大合議 平成26530日判決 平成25(行ケ)10195平成25(行ケ)10196平成25(行ケ)10197平成25(行ケ)10198

 

・上告棄却

・特許法第67条の2、第67条の311号、特許権の存続期間の延長登録出願

 

(経緯)

 被上告人(原審原告)は、発明の名称を「血管内皮細胞増殖因子アンタゴニスト」とする特許(特許第3398382号、出願日:平成4年10月28日、登録日:平成15年2月14日。以下、「本件特許」)の特許権者である。

 被上告人は、本件特許に係る発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとして、5年の存続期間の延長登録を求めて、特許権の存続期間延長登録出願(以下、「本件出願」)をした。しかし、本件出願は拒絶査定を受け、さらに、その拒絶査定不服審判においても請求不成立審決を受けた。

 被上告人は、請求不成立審決を不服として、その取消を求めて、知財高裁に訴えを提起した。知財高裁は、本件出願が、特許法67条の3第1項1号に該当するとして、本件特許権の存続期間の延長登録を受けることができないとした審決の判断には誤りがあるから、審決は取り消されるべきであるとの判決をした(知財高裁大合議H25(行ケ)10195H25(行ケ)10196H25(行ケ)10197H25(行ケ)10198)。

 本件は、原審の判決に不服の上告人(原審被告)が、その取消しを求めて最高裁に上告したものである。

 

 尚、被上告人は、下記の本件医薬品につき、医薬品の製造販売の承認事項の一部変更承認を受けた(延長登録の理由となる処分。以下、「本件処分」)。

・有効成分

 本願の請求項1に記載された「抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」に当たる「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」

・効能又は効果

 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌

・用法及び用量

 他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはベバシズマブとして1回7.5mgkg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。

 

 また、本件医薬品は、本件処分に先立って、以下の医薬品製造販売承認(本件先行処分)を受けている。

・効能又は効果

 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌

・用法及び用量

 他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人には、ベバシズマブとして1回5mg/kg(体重)又は10mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする。

 本件先行処分では、XELOX療法(1サイクルを3週間とし、内服薬と2時間の点滴薬の投与で済む療法)とベバシズマブ療法との併用療法のための本件医薬品の製造販売が許されなかったが、本件処分で初めてこれが可能となった。

 

(審決の理由)

 請求不成立審決の理由は、以下の通りである。

 すなわち、特許法67条の3第1項1号の判断において、「特許発明の実施」は、処分の対象となった医薬品その物の製造販売等の行為ととらえるのではなく、処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項(発明特定事項に該当する事項)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。本件特許発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は、本件先行処分によって実施できるようになっており、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。従って、本件出願は、は67条の3第1項1号に該当し、特許権の存続期間の延長登録を受けることができない。

 

(原審の判断)

 知財高裁大合議判決は、67条の3第1項1号の「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには、①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと、及び、②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為に含まれることが必要であると判示した。

 そして、前記①の判断に当たっては、医薬品の審査事項である「名称、成分、分量、用法、用量、効能、効果、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項」の各要素を形式的に適用して判断するのではなく、存続期間の延長登録制度を設けた特許法の趣旨に照らして実質的に判断することが必要であり、さらに、医薬品の成分を対象とする特許については、薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は、上記審査事項のうち「名称」、「副作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項(成分、分量、用法、用量、効能、効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当であるとした。

 そして、本件の場合、本件先行処分では、本件処分の内容について禁止が解除されておらず、当該本件処分で初めてそれが解除されたものであった。

 そのため、知財高裁大合議は、本件処分が「政令で定める処分を受けたことによっては、禁止が解除されたとはいえないこと」との要件を充足していないとして、審決は取り消されるべきであるとの判断をした。

 尚、知財高裁大合議は、68条の2に基づく延長された特許権の効力の及ぶ範囲についても検討している。

 すなわち、「特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨に照らすならば、医薬品の成分を対象とする特許発明の場合、同法68条の2によって存続期間が延長された特許権は、「物」に係るものとして、「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され、かつ、「用途」に係るものとして、「効能、効果」及び「用法、用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で、効力が及ぶものと解するのが相当である」とした。

 

(最高裁の判断)

 最高裁は、知財高裁大合議の判決を是認し、被上告人の上告を棄却した。

 先ず、67条の3第1項1号の判断にあたっては、「医薬品の製造販売につき先行処分と出願理由処分がされている場合については、先行処分と出願理由処分とを比較した結果、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売をも包含すると認められるときには、延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないこととなるというべきである。そして、このように、出願理由処分を受けることが特許発明の実施に必要であったか否かは、飽くまで先行処分と出願理由処分とを比較して判断すべきであり、特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項によって判断すべきものではない。」とした。

 そして、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するか否かは、先行処分と出願理由処分の審査事項(医薬品の「名称、成分、分量、用法、用量、効能、効果、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項」)の全てを形式的に比較することによってではなく、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について、両処分を比較して判断すべきである、とした。

 その結果、「出願理由処分と先行処分がされている場合において、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較した結果、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないと解するのが相当」とした。

 本件については、本件先行処分において、XELOX療法とベバシズマブ療法との併用療法のための本件医薬品の製造販売が許されなかったが、本件処分で初めてこれが可能となったなどとして、「先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するとは認められない。」と判決した。

 

(判決文)http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/467/085467_hanrei.pdf