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判例・実務情報

【特許】 選択発明



Date.2013年10月25日

1.選択発明とは

 選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいう(審査基準第Ⅱ部第22.5(3)())。

 

2.選択発明の種類

 (1) 代表的には、化合物の選択発明と、数値範囲の選択発明が挙げられる。

 

 (2) 化合物の選択発明

 先行技術文献において広く定義されていた化合物の中から特定の化合物を選択した発明の場合をいう。

 例えば、ある一般式で表される化合物が殺虫性を有することが知られていたが、その一般式に含まれる特定の化合物(殺虫性に関し具体的に公知でない)について、人に対する毒性が上記一般式中の他の化合物に比べて顕著に少ないことを見出し、これを殺虫剤の有効成分として選択した場合などが挙げられる。

 

 (3) 数値範囲の選択発明

 先行技術に開示されていた広い数値範囲の中から特定の数値範囲を選択した発明の場合をいう。

 例えば、先行技術文献において1~100質量%と記載されていた場合に、40~70質量%の範囲で顕著な効果を奏することを見出して、これを選択した場合などが挙げられる。

 

 (4) その他

 選択発明は、製造方法の発明や用途発明においても認められる場合がある。

 

3.選択発明の新規性・進歩性

 (1) 新規性

 例えば、先行技術文献において広く定義されていた化合物の中から特定の化合物を選択した選択発明の場合、その先行技術文献中に特定の化合物に関する実施例などの記載がある場合は、新規性が否定される。また、実施例の記載がなくても、特定の化合物に関する有利な効果に関する開示や示唆がある場合には新規性が否定される場合がある。

 

 (2) 進歩性

 審査基準によれば、「刊行物に記載されていない有利な効果であって、刊行物において上位概念で示された発明が有する効果とは異質な効果、又は同質であるが際立って優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは、進歩性を有する。」とされている(審査基準第Ⅱ部第22.5(3)())。

 

 進歩性が肯定されるためには、有利な効果を示すことが重要となる。例えば、選択した範囲での顕著な効果を示す実施例と、選択した範囲以外での比較例を示すことができれば、有利な効果が参酌され得る。

  

4.選択発明の裁判例

 (1) 選択発明が肯定された裁判例

① 有機燐酸エステル殺虫剤事件(東京高裁昭和381031日判決 昭和34(行ケ)13

 引用文献の一般式に含まれるが、具体的な開示がなかった化合物の発明について、温血動物に対する毒性が低いという有利な効果を奏する点が認められ、進歩性が肯定された。

 

② 電子部品処理用機材事件(東京高裁平成151210日判決平成14(行ケ)418)

 熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の成形後、温水中(80℃)での1日当たりの有機物抽出量を有機炭素量で500μg/m2以下に選択した点が、「当業者が目標として設定するであろう水準を超えている」として進歩性を肯定した。

 

 (2) 選択発明が否定された裁判例

① 室温硬化性組成物事件(東京高裁平成17328日判決 平成16(行ケ)427)

 原告は、刊行物1にはステアリルアミンが艶消し効果、硬化物の表面汚れの防止効果について開示がないことから、当該ステアリルアミンを含有する室温硬化性組成物に関する本願発明は選択発明であるとして進歩性を主張した。しかし、裁判所は当業者が選択を行う過程において使用試験を行うことにより、容易に発見できる事柄であるなどとして、進歩性を否定した。

 

②解熱鎮痛消炎剤事件(知財高裁平成17118日判決 平成17(行ケ)10389)

 トラネキサム酸と解熱鎮痛消炎剤を併用することが公知である場合に、解熱鎮痛消炎剤としてエテンザミドを選択した発明の進歩性が争われた。裁判所は、エテンザミド以外の解熱鎮痛消炎剤成分であるサリチル酸系抗炎症剤との配合によって得ることのできない固有の効果がないとして、進歩性を否定した。

  

5.選択発明に関する各国の状況

 (1) 日本をはじめ米国、欧州、中国、韓国など主要国では認められている。

  但し、ドイツでは選択発明が認められていない。