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判例・実務情報

【東京地裁、特許】発光ダイオードに関する特許について、分割要件違反による新規性欠如が認められ、特許権の侵害が否定された事例



Date.2013年7月8日

東京地裁 平成25年3月25日判決 平成23年(ワ)第35168号、第35169号 発光ダイオード事件

 

・請求棄却

・日亜化学工業株式会社 対 燦坤日本電器株式会社

・特許法44条 出願分割、分割要件違反

 

(経緯)

 本件は、「発光ダイオード」に関する特許権(本件特許権)を有する原告が、被告に対し、補助参加人が製造し、被告が輸入販売しているLED電球(被告製品)は、本件特許に係る発明の技術的範囲に属し、本件特許権を侵害すると主張して、被告製品の譲渡等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求める事案である。

 

 

(本件特許)

 本件特許の請求項1に記載の発明は、以下の通りである。

 

【請求項1】

 窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと、該LEDチップを直接覆うコーティング樹脂であって、該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光するフォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング樹脂を有し、

 前記フォトルミネセンス蛍光体に吸収されずに通過した前記第1の光の発光スペクトルと前記第2の光の発光スペクトルとが重なり合って白色系の光を発光する発光ダイオードであって、

 前記コーティング樹脂中のフォトルミネセンス蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップに向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。

 

(争点)

 主な争点は、下記の通りである。

・争点1~3:侵害論(構成要件の充足性)

・争点4~7:無効論(分割要件違反に基づく新規性・進歩性の欠如、進歩性の欠如、サポート要件違反、明確性要件違反)

 

(裁判所の判断)

 上記争点のうち、分割要件違反に基づく新規性・進歩性の欠如について、裁判所は以下の通り判断している。

 

 先ず、原出願においては、「フォトルミネセンス蛍光体が、Y、Lu、Sc、La、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体を含む」とされていたが、本件発明においては、フォトルミネセンス蛍光体が「第1の光とは波長の異なる第2の光を発光するフォトルミネセンス蛍光体」と定義されているだけで、蛍光体の具体的組成(本件組成)が削除されていた。

 

 その結果、本件においては、原出願の明細書の「フォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部やモールド部材の表面側から発光素子に向かってフォトルミネセンス蛍光体の分布濃度を高くした場合は、外部環境からの水分などの影響をより受けにくくでき、水分による劣化を防止することができる」(【0047】)との記載内容から、上記「フォトルミネセンス蛍光体」が、必ずしも上記の具体的組成のものに限られるものではなく、原出願に本件発明が開示されていたか否か問題となった。

 

 裁判所は、本件発明が原出願に開示されていたとはいえないとして分割要件違反を認め、これにより、本件特許の実際の出願日を基準に新規性等を検討した結果、新規性を欠いているとして原告の請求を棄却した。

 すなわち、原出願の明細書には、本件組成に属する蛍光体( 「(Y0.8Gd0.2AlO1:Ce蛍光体」)を使用した実施例1と、下部構成を採用した上で本件組成に属しない蛍光体(「(ZnCd)S:Cu、Al」)を使用した比較例1が記載されており、比較例1では、高温多湿条件下で早期劣化することが記載されていた。

 また、原出願の明細書には、(表面側から発光素子に向かってフォトルミネセンス蛍光体の分布濃度を高くする構成を採用した場合には、)「水分による劣化を防止することができる」との記載があり、当該記載部分について裁判所は、当業者であれば、本件組成に属する蛍光体について述べたものであると認識、理解するのが自然である、と判断した。

 

 原告は、本件組成に属しない蛍光体((Sr.Ba)SiO:Euで表される緑色蛍光体と(Sr.Ca)AlSiN :Euで表される赤色蛍光体)についても、効果が得られる場合がある旨の実験結果を提出したが、裁判所は、「分割が許されるためには、原出願の明細書に本件発明についての記載、開示があること(当業者において、記載、開示があると合理的に理解できることを含む。)を要するから、訴訟過程で提出された上記実験結果(甲14)をもって、前記の結論を左右することはできない」とした。

 

 以上より、本件発明は、原出願に開示されていた発明を含む上位概念の発明にあたるとして、新規性を欠いていると判断された。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130521184147.pdf