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判例・実務情報

【知財高裁、特許】 相違点に係る容易想到性の判断が誤りであるとして、特許有効の判断をした事例 平成23(行ケ)10314 炭化方法事件



Date.2012年4月11日

知財高裁平成24年03月22日判決 平成23(行ケ)10314 炭化方法事件

 

・請求認容

・株式会社ナカタ、株式会社安田製作所 対 株式会社カーボテック

・特許法29条2項、進歩性、容易想到性の判断

 

(経緯)

 原告の株式会社ナカタ・株式会社安田製作所は、特許第3364065号(発明の名称「炭化方法」)の特許権者である。

 被告の株式会社カーボテックは本件特許に対し無効審判を請求し、特許庁は一部無効との審決をした。原告らは一部無効との審決部分に対し、その取消しを求めて知財高裁に訴えを提起した(知財高裁平成22(行ケ)10378)。

 これに対し知財高裁は、一部無効とする審決を取り消すとの決定をした。当該取消決定を受けて特許庁は審理を再開した。そして、再開後の審理において原告らは訂正請求をしたが、特許庁は訂正を認めた上で無効とする審決をした。

 本件はこの無効審決に不服の原告らが、その取消しを求めて知財高裁に訴えを提起したものである。

 

(審決)

 審決は、特開昭51-148701号公報(刊行物1)に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件発明は当業者が容易に発明をすることができたものであり、無効にすべきものである、というものである。

 

(本件訂正発明及び引用発明)

 本件訂正発明は以下の通りである。

【請求項1】

 木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。

 

 また、審決が認定した引用発明は、以下の通りである。

 パルプ廃滓を出発原料とし、該出発原料を脱水したものにベントナイトを添加し、ロータリキルンへ装入し、熱風吹込温度を700℃又は800℃として、パルプ廃滓を炭化させる炭化方法。

 

(本件訂正発明と引用発明の相違点)

 審決が認定した本件訂正発明と引用発明の相違点は、以下の通りである。

 

ア 相違点1

 本件訂正発明においては、「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」と特定されているのに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。

イ 相違点2

 本件訂正発明においては、「原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

ウ 相違点3

 本件訂正発明においては、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

エ 相違点4

 可燃物を炭化させる工程が、本件訂正発明においては、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

オ 相違点5

 可燃物が、本件訂正発明においては、「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる」と特定されているのに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。

 

(争点)

 争点は、相違点1及び4に係る容易想到性の判断に誤りがあるか否かである。

 

(裁判所の判断)

 先ず、裁判所は、本件訂正発明の解決課題が、従来の閉塞式の炭化炉においては、時間的な効率が悪いこと(木材等の大型の可燃物から炭を作る際に、可燃物を炭化炉内に一旦プールすることによる効率の低下)、及び炭化炉の製作コスト及び保守コストが高いこと(可燃物をプールしてガスを燃焼させるため、炭化炉内が高温になり、炉の内壁をセラミック等の耐熱材で形成する必要があることによるコストの増加)にあると認定した上で、本件発明については、出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆し、原料のガス成分に着火及び燃焼させ、無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、可燃物を炭化させるものであると認定した。

 

 その上で、「本件訂正発明における「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」における「被覆」とは、原料の表面の一部分に無機質粘結材が存在する程度では足りず、炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆うが、他方、原料に着火でき、原料のガス成分を燃焼できる程度を超えるほどには原料の表面を覆わないことを意味するものと解される。」と解釈した。

 

 一方、引用発明については、炭化した際の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るため、水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト等をバインダとして添加するものであり、微粉化が避けられる結果、収率の向上を図るものであったことから、引用発明は、原料であるパルプ廃滓とベントナイト等のバインダが混練された結果、パルプ廃滓の表面にベントナイト等が一部存在しているとしても、ベントナイト等を用いてパルプ廃滓を被覆することにより、炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆っていると認めることはできない、と認定した。

 

 その結果、本件訂正発明と引用発明では、両者の技術的意義が異なり、審決における相違点1及び4の容易想到性の判断には誤りがあるとした。

 

 なお、刊行物1においては、実施例1(バインダを用いないもの)に比べ、実施例2(無機物である水ガラスをバインダとして用いたもの)の方が炭化物の収率が向上していることが示されていた。

 しかし、実施例1及び2の炭化の条件(熱風吹込温度及び炉内滞留時間)が異なっており、また、有機物であるでんぷんのりをバインダとして用いた実施例3の方が実施例2よりも炭化物の収率がよくなっていたことから、これらの実施例を根拠に、刊行物1には、無機質粘結材を用いて原料を被覆し、これにより酸化を抑制することが開示されているとはいえない、と判断した。

 

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120326170400.pdf