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判例・実務情報

【欧州、商標】 欧州共同体商標(CTM)の概要



Date.2012年3月7日

 ヨーロッパ諸国で商標登録をしたい場合、欧州共同体商標CTMCommunity Trade Mark)の制度を利用する方法があります。

 

1.  CTMの概要

 CTMは、欧州共同体商標意匠庁(OHIMthe Office for Harmonization in the International MarketTrade Marks and Desigins))等に単一の出願をするだけで、EU加盟国全域において等しい効力を及ぼす商標権の取得を可能にします。

 

CTMの権利は、登録・移転・放棄・取消・無効等について、常に一体のものとして扱われます。

 

・権利の存続期間は出願日より10(更新可能)。

 

 

2.  対象国

 ・下記のEU加盟国で保護されます。

 

オーストリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、イギリス、チェコ、エストニア、キプロス、ラトヴィア、リトアニア、ハンガリー、マルタ、ポーランド、スロベニア、スロバキア、ルーマニア、ブルガリア

 

 

3.  保護対象

(1)保護対象となる商標

・文字、図形、記号、立体、音響、色、におい、位置、ホログラム、動的商標

Work Markとして出願し登録を受ければ、どのような書体に対しても登録商標の使用が可能になり、不使用取消の対象となるのを回避することができます。

(2)分類(商品又は役務)

・ニース協定に基づく国際分類を採用。

一出願多区分制

小売等サービスも保護対象

・指定商品・指定役務として、一定の包括概念表示が可能

 例えば、Chemicals used in industry, science and photography, as well as in agriculture and forestry「工業用、科学用、写真用、農業用、林業用の化学品」など。

 

 

4.  手続

 (1) 出願

・出願先 OHIM、各加盟国の特許商標庁、ベネルクス商標庁に出願できます。

・言語 欧州共同体の公式言語(22カ国語)のいずれか(第1言語)

 また、第2言語を選択する必要があります。第2原語としては、OHIMの公式言語(英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語)のいずれかを選択します。

 尚、異議申立、取消審判、無効審判などで使用される言語はOHIMの公用語(英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語)に制限されています。従って、第1言語及び第2言語の選択においては、異議申立等のリスク軽減を考慮して行うことも考えられます。

・願書 出願人の氏名・住所、登録を受けようとする商標、分類、指定商品・指定役務を記載。

 商標について、自発的な権利不要求(disclaim)が可能。

委任状

 公証は不要

優先権証明書

 パリ条約に基づく優先権主張をする場合は、出願日から3ヶ月以内に提出が必要です。

 また、出願後に優先権主張をすることができます。この場合、出願日から2ヶ月以内に、基礎出願の国名、出願日を記載した優先権の申立書を提出することが必要になります。

 

(2) 出願費用

 

 商標登録出願

 電子出願  EUR 900(3区分まで)

 紙出願  EUR 1,050(3区分まで)

 区分数の加算額(4区分目以降)

 EUR 150

 

(3) 審査

・方式審査、及び絶対的拒絶理由の審査が行われます。

 先行商標との関係(相対的拒絶理由)についての審査はありません。

 

・絶対的拒絶理由は、以下の通りです。

 (a) 4条の要件に従わない標識

 (b) 識別性を欠く商標

 (c) 商品若しくはサービスの種類,品質,数量,用途,価格,原産地,商品の製産の時期,サービスの提供の時期,又はその他の特徴を示すために取引上使用されることがある標識若しくは表示のみからなる商標

 (d) 通用語において又は公正かつ確立した商慣習において常用されるようになっている標識若しくは表示のみからなる商標

 (e) 商品そのものの性質から生じる形状、技術的成果を得るために必要な商品の形状、又は商品に本質的価値を与える形状のみからなる商標

 (f) 公共政策又は一般に是認された道徳規範に反する商標

 (g) 公衆を,たとえば,商品若しくはサービスの性質,品質又は原産地について欺瞞するような性質の商標

 (h) 権限のある当局によって許可されていない商標であって,パリ条約第6条の3に従い拒絶されるべきもの

 (i) パリ条約第6条の3に規定するもの以外の記章,紋章又は紋章入りの盾を含む商標であって,特定の公共の利益のためのもの。

 (j) ぶどう酒又は蒸留酒の産地を表示する地理的表示を含み又はそれよりなる商標であって,当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒についてのもの

 

オフィスアクション

 オフィスアクションに対する応答は、受領日から2ヶ月以内です。応答に際しては、意見書、手続補正書を提供することができます。

 応答の結果、拒絶理由が解消されない場合は、拒絶査定となります。拒絶査定に対しては、拒絶査定の受領日から2ヶ月以内に審判を請求して再び争うことができます(理由補充は、拒絶査定の受領日から4ヶ月以内)。

 また、各国への国内出願に変更することも可能です。国内出願への変更は、拒絶の確定日または取下げ日から3カ月以内に行う必要があります。

 

(4) サーチレポート

OHIMは、先行するCTM登録および出願について調査を行います。サーチレポートは、出願人に送付され、先行商標の所有者にも通知されます。

・各国の管轄官庁によるサーチレポートについては、出願人が出願時に調査を希望し、かつ、手数料を支払ったときにのみ作成されます。

 

(5) 出願公告

 方式審査、絶対的拒絶理由についての審査を通過した出願は、出願人にサーチレポートを送付した日から1ヶ月が経過した後に、出願公告されます。

 

 

5.  シニオリティ

(1) EU加盟国において商標登録をしている者が、同一又はこれに含まれる商品・役務について、同一の商標をCTMに出願する場合、自己の先の登録商標を有していたこと(優先順位(シニオリティ))を主張することができます。

 

(2) 効果

・シニオリティを主張することにより、先の登録商標を更新しなかったり放棄により権利が消滅しても、当該加盟国で有していたのと同一の権利を継続して有しているものとみなされます

・但し、先の登録商標が取消又は無効となった場合、CTMの登録前に消滅していた場合は、シニオリティは消滅します。

・シニオリティは、出願時の他、出願後2ヶ月以内、又は登録後に主張可能です。

 

 

6.  異議申立

(1) 異議申立期間 出願公告後3カ月


(2)
 異議申立ての理由

 絶対的拒絶理由

 相対的拒絶理由(同一または類似の先行商標に基づく拒絶理由)


(3)
 出願人の対応

・真正なる使用の立証請求

・異議申立人に対し、申立理由とした先行商標について公告日前5年以内における使用事実の立証を求めることができます。申立人側が立証できなければ、異議申立は却下されます。

・補正

・各国への国内出願への変更

・異議申立人との和解

クーリングオフの利用

 異議申立の審理が開始される前に、2カ月間(22ヶ月の延長可能)クーリングオフ期間が設けられています。当該期間中に当事者間で交渉を行い、異議申立の取下げや指定商品・指定役務の限定的使用などをして紛争解決を図ることも可能です。

 

 

7.  登録手続

・異議申立てがないとき、または異議申立てが成立しなかった場合、登録査定となります。

・登録料の納付は不要です(20095月より)。

 

8.  存続期間

・出願日から10年間

10年毎に更新が可能。更新の申請は、存続期間の満了する月の末日前6ヶ月以内となっています。

 

9.  欧州共同体商標のメリット・デメリット

 

メリット

デメリット

 手続の簡素化

 単一の出願で全てのEU加盟国をカバーする商標権の取得が可能です。

 出願時の制約

 EU加盟国のうちから任意の国だけを指定して出願することはできません。

 費用の節減

 一出願で済み、かつ、現地代理人も一人で済むので、EU加盟国の多くの国にそれぞれ直接出願する場合よりも費用が安くなります。

 拒絶の効果

 EU加盟国のいずれか1ヶ国でも拒絶理由があり、その解消が図れない場合は、全ての加盟国で商標登録を受けることができません。

 (但し、拒絶理由がなかった加盟国で、通常の国内出願に変更することによりそのような事態の回避が図れます。)

 不使用を理由とした取消の回避が容易

 加盟国のいずれか1カ国で商標を使用していれば、不使用に基づく商標の取消を免れることができます。

 審査

 原則として、「相対的拒絶理由」については審査されません。そのため、異議申立や商標権の侵害訴訟を起こされる可能性があります。

 権利の管理の簡素化

 商標登録後の更新、譲渡の手続が一元化でき、商標管理の合理化が図れます。

 取消・無効の効果

 EU加盟国のいずれか1ヶ国でも登録商標が取消・無効になった場合、他のEU加盟国においても権利が消滅します。

 商標権の譲渡

 国ごとに商標権を譲渡することができず、全加盟国で一括した商標権の譲渡のみが認められています。

 

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