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判例・実務情報

【米国、商標】 米国商標制度の概要



Date.2012年5月21日

1. 米国商標制度の構造

 

(1) コモンロー

 米国では、不正競争の防止に関するそれぞれの州のコモンローによって、実際の使用に基づき商標が保護されています。このようなコモンロー上の商標権は、米国特許商標庁(USPTO)に登録しなくても、他人にその商標の使用を禁止することができます。

 但し、コモンロー上の商標権は登録により権利範囲が明らかになっているわけではありませんので、無用の紛争に巻き込まれる可能性がある点には注意を要します。

 

(2) 連邦商標法(Lanham法)

 連邦商標法は、州際取引(州と州の間の取引)、国際取引(国と国との間の取引)に使用する商標を保護しています。この連邦商標法に基づく商標権は、USPTOに対し商標出願を行い登録されることにより発生します。

 連邦商標権は、全米の他、プエルトリコ及び属領(グアム)でも権利が及びます。

 

(3) 州商標法

 各州毎に、それぞれの商標法により商標の保護も図られています。登録手続などは各州の州法により異なります。

 また、州商標法に基づく商標権は、登録者が実際にその標章を使用している州内の地域に限定されます。

 

(4) コモンロー、連邦商標法及び州商標法の関係

 上述の通り、商標は、不正競争の防止に関するそれぞれの州のコモンローによって保護されるとともに、それぞれの州で制定された州法によっても保護されています。

 また、連邦商標法と州商標法の間においては、連邦登録が州登録よりも先の場合、各州においては連邦登録の商標権が優先されます。

 その一方、州登録が連邦登録よりも先の場合は、州登録の商標はその州内の現在の使用地域に限定して継続して使用可能ですが、それ以外の地域では連邦登録の商標権が優先されます。

 

 

2. 連邦商標法の概要

 

(1) 保護対象

 連邦商標法により保護される商標は、言葉、名称、記号若しくは図形又はその結合からなる商標と定義されています。

 さらに、音の商標、においの商標、色彩の商標、感触の商標、動く商標、ホログラム商標、スローガン商標、ポジション商標、立体商標、トレードドレスが保護対象となっています。

 

*トレードドレスとは、製品のパッケージに使われる宣伝用印刷物や包装など全般の形態を意味し、パッケージに付される商標だけでなく、容器や包装の輪郭,大きさ、形、色、デザイン印象、感触、素材、画像、特定のセールステクニックなども含まれるものです。

 

(2) 登録要件

 登録要件は以下の通りです。

 ・商標であること

 ・識別力があること

 ・不道徳、欺瞞的若しくは中傷的な事柄、生存中の者もしくは死者との関連怯、公共団体、信仰若しくは国家的シンボルを謙譲し若しくは誤 って暗示し、又はこれを侮辱し若しくはその名誉を傷つけるおそれのある事柄からなる商標、又はこれらの事柄を含む商標

 ・合衆国、州、自治体、外国の旗章、紋章等でない商標

 ・生存中の特定の個人を示す氏名、肖像、署名等でない商標

 ・死去した米国大統領の氏名、署名、肖像であって、未亡人が生存期間中のものでないこと。但し、未亡人の書面による同意がある場合を除く。

 ・連邦登録商標又は出願商標と出所の混同を生じないこと

 ・記述的商標でないこと、品質誤認を生じさせないこと

 ・地理的名称でないこと、地理的誤認をしょうじさせないこと

 ・単なる名字でないこと

 ・全体として機能的でないこと

 ・装飾的でないこと

 

(3) 出願手続

(a) 出願形式

 ・多区分一出願が可能。

 ・出願の形態としては以下の5種類が可能です。

  () 米国での現実の使用に基づく出願

     州際間使用又は外国通商使用に基づく出願です。

  () 米国での使用意思(Intent to Use)に基づく出願

     使用の意思があれば出願できるとしたものです。

  () パリ条約の優先権に基づく出願(44(d)

  () パリ条約の本国登録に基づく出願(44(e)

  () マドリッドプロトコルに基づく出願

 

(b) 必要書類

  () 願書

・指定商品・指定役務は複数形で記載(使用に基づく出願の場合は、具体的な指定商品等を使用するのが好ましい)。

・指定商品・役務の記載においては、原則、括弧書き(parentheses & brackets不可です(TMEP1402.12)。

・米国における指定商品・指定役務の記載の可否を確認するには、こちらのサイトで確認するのがお奨めです。

・最先の使用日(海外取引・州間取引に商標が使用された最先日、海外で使用した場合はその国名と最先の使用日)(使用に基づく出願の場合)

  () 委任状

  (ⅲ) 商標見本(Drawing)(標準文字のとき不要)

  (ⅳ) 使用見本(Specimens)(使用に基づく出願の場合)

・出願商標との同一性が必要

・多区分出願の場合はクラスごとに提出

・具体的には、商標が商品に直接付されている状態の写真、ラベル・タグ、商品容器・梱包物、カタログ、展示物等が挙げられます。

 

(c) 主登録簿・補助登録簿

 通常、識別力を有する商標は主登録簿(principal registerに登録されます。

 しかし、識別力が弱くても、米国で現実に使用が開始されている場合、又は外国出願・外国登録を基礎とした出願である場合には、補助登録簿(supplemental registerにより商標登録を受けることができます。例えば、記述的商標や地理的表示、単なる性からなる商標等については、利用価値があります。

 

 (注意)

 ・使用意思に基づく出願マドリッドプロトコルに基づく出願については、補助登録を受けることはできません。

 ・補助登録に切り換えた場合、その使用証拠を提出した日が有効な出願日となります。

 

 

主登録簿

補助登録簿

 使用意思に基づく出願

×

 パリ条約に基づく優先権主張・本国登録に基づく出願

 後願に対する引例としての効果

 登録の有効性・商標の権利者であること等の一応の証拠

×

 擬制使用、権利範囲の全米への拡大

×

 連邦裁判所での侵害訴訟

 不可争性の取得の可能性

×

 登録名義人の権利主張の擬制告知

×

 登録商標である旨の表示

 税関での侵害物品の輸入差止

×

 異議申立

対象

対象にならない

 マドリッドプロトコルに基づく出願

×

 

(4) 審査・審判

 ・審査の結果、登録要件を満たさない出願については、Office Actionが通知されます。

 ・このオフィスアクションに対しては、原則として6ヶ月以内に答弁書等を提出して応答しなければなりせん。応答しても拒絶理由が解消できないときは、Final Office Actionが通知されます。このFinal Office Actionに不服の場合は、Appeal(審判請求)することになります。

 ・Final Office Action後、再考請求書(Request for Reconsideration)を提出して、審査の再考を求めることが可能。

 

(5) 登録

 ・拒絶理由がなかった場合、又は拒絶理由が解消された場合には、出願公告がなされ、異議申立の機会が与えられます(登録に影響を受けるものは何人も)。異議申立は、特許庁公報掲載後30日以内にすることができます。異議申立がない場合、使用意思に基づく出願の場合のみ、登録許可が通知(Notice of Allowance)されます。

 ・使用意思に基づく出願の場合、登録許可通知後、6ヶ月以内使用宣誓書(Statement of Use)を提出する必要があります。提出は5回まで延長可能(最長3年間)。また、2回目以降の延長から延長理由が必要。

 

(6) 存続期間

 ・登録日から10年間有効。

 ・登録から56年目の間、登録から910年目の間、及びその後10年毎の更新手続の際に、「使用宣誓書」の提出が要求されます。

  使用宣誓書を提出しない場合、商標権は取り消されます。

  また、商標登録がマドプロ経由の場合は、米国での登録日から起算されます。

 

(7) 商標登録後の手続

(a) 更新手続

 ・更新手続は、登録から910年目の間、及びその後毎年10

 ・使用宣誓書

 ・通常はUSPTOに更新手続きを行う。

 ・マドプロ経由の商標登録については、WIPOに対し更新手続きを行う。但し、使用宣誓書はUSPTOに提出。

 

(b) 米国登録から56年目の間に、使用宣誓書及び不可争性宣誓書を提出

 

 

米国国内登録

マドプロ経由の国際登録に基づく米国登録

米国登録から56

・使用宣誓書

・不可争性宣誓書

・使用宣誓書

・不可争性宣誓書

米国登録から10

・使用宣誓書

・更新手続

・使用宣誓書

その後10年毎

・使用宣誓書

・使用宣誓書

更新手続は、WIPOに対し行う。

 

(8) マドプロ出願経由の場合の注意点

(a) 出願

 ・「誠実な使用意思宣言書」(MM18)が添付されていることを条件として、アメリカ出願とみなされます(66条(a))。

(b) 擬制使用

 ・以下のうち最先の日に、7条(c)の擬制使用(constructive use)を構成します(66条(b))。

  (ⅰ) 保護拡張請求が国際出願において提出されたとき、国際登録日

  (ⅱ) 保護拡張請求が国際登録日後なされたとき、保護拡張請求の記録日

  (ⅲ) 67条に基づく優先権主張日

(c) 使用の要件

 ・使用されていないことを理由として、拒絶されることはありません(68条(a)(3))。

(d) 登録

 ・補助登録簿ではなく主登録簿への登録要件が要求されます。

 ・登録証は発行されず、代わりに、「保護拡張証明書」(Certificate of Extension of Protection)が発行されます(68条(c)(4),69条(a))。

(e) 権利の効力の発生日

 ・国際登録日ではなく、保護拡張証明書の発行日となります。

 ・その保護拡張は、主登録簿における登録と同一の効力及び有効性を有し、国際登録保有者は、主登録簿における登録の所有者と同等の権利及び救済を有します(69条(b))。

(f) 使用証明

 ・保護拡張証明書の発行日より6年目の期間満了前1年以内に宣誓供述書を提出する必要があります。未提出の場合、その保護拡張は失効します(71条(a)(1))。

 ・保護拡張証明書の発行日より10年毎の末日までに宣誓供述書を提出する必要があります。未提出の場合、その保護拡張は失効します(71条(a)(2))。