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判例・実務情報

【欧州拡大審判部、特許】 植物の全ゲノムの交配および選別を含む非微生物学的な植物の生産方法は、原則として、EPC53条(b)の「本質的に生物学的」なものとして特許の対象から除かれる。



Date.2010年12月22日

G2/07(ブロッコリー事件)、G1/08(トマト事件) 審決日:2010年12月9日

 拡大審判部は、いわゆる「ブロッコリー」事件(G2/07)および「トマト」事件(G1/08)についての審決で、EPC53条(b)における「植物(又は動物)の製造のための本質的に生物学的な方法」の適切な解釈を示した。

 EPC53条は特許の対象の例外規定を定めている。具体的には、以下の通りである。

 

第53条 特許性の例外
 欧州特許は,次のものについては,付与されない。
 (a) その商業的利用が公の秩序又は善良の風俗に反する虞のある発明。ただし,その利用が,一部又は全部の締約国において法律又は規則によって禁止されているという理由のみで公の秩序又は善良の風俗に反しているとはみなされない。
 (b) 植物及び動物の品種又は植物又は動物の生産の本質的に生物学的な方法。ただし,この規定は,微生物学的方法又は微生物学的方法による生産物については,適用しない。
 (c) 手術又は治療による人体又は動物の体の処置方法及び人体又は動物の体の診断方法

 

この規定は,これらの方法の何れかで使用するための生産物,特に物質又は組成物には適用しない。

 

・G2/07 「ブロッコリー」事件

 本ケースにおけるクレーム1は下記の通りである。

 

1. A method for the production of Brassica oleracea with elevated levels of 4-methylsulfinylbutyl glucosinolates, or 3-methylsulfinylpropyl glucosinolates, or both, which comprises:
a) crossing wild Brassica oleracea species selected from the group consisting of Brassica villosa and Brassica drepanensis with broccoli double haploid breeding lines;
b) selecting hybrids with levels of 4-methylsulfinylbutyl glucosinolates, or 3-methylsulfinylpropylglucosinolates, or both, elevated above that initially found in broccoli double haploid breeding lines;
c) backcrossing and selecting plants with the genetic combination encoding the expression of elevated levels of 4-methylsulfinylbutyl glucosinolates, or 3-methylsulfinylpropyl glucosinolates, or both; and
d) selecting a broccoli line with elevated levels of 4-methylsulfinylbutyl glucosinolates, or 3-methylsulfinylpropyl glucosinlates [sic], or both, capable of causing a strong induction of phase II enzymes,
wherein molecular markers are used in steps (b) and (c) to select hybrids with genetic combination encoding expression of elevated levels of 4-methylsulfinylbutyl glucosinolates, or 3-methylsulfinylpropylglucosinolates, or both, capable of causing a strong induction of phase II enzymes.

 

 本ケースに於いて、拡大審判部に付託された質問は、以下の通りであった。

1.植物を交配、選別する工程を含む植物の製造に関する非微生物学的方法は、交配および選別の工程として、又は複数の工程の何れかとして、技術的性質の付加的特徴を含むという理由で、EPC53条(b)の除外から除かれるのか?

2.質問1が否定的な回答の場合、EPC53条(b)の特許保護の対象から除かれている非微生物学的な植物の生産方法と、除かれない方法とを区別するための実際的に意味のある基準は何であるか?特に、クレームされた発明の本質がどこにあるのか、及び/又は技術的な性質の付加的特徴が、クレームされた発明に通常の水準を超えて何らかの貢献をするのか否かが、関連するのか?

・G1/08 「トマト」事件

 本ケースにおけるクレーム1は下記の通りである。

 

1. A method for breeding tomato plants that produce tomatoes with reduced fruit water content comprising the steps of:
crossing at least one Lycopersicon esculentum plant with a Lycopersicon spp. to produce hybrid seed;
collecting the first generation of hybrid seeds;
growing plants from the first generation of hybrid seeds;
pollinating the plants of the most recent hybrid generation;
collecting the seeds produced by the most recent hybrid generation;
growing plants from the seeds of the most recent hybrid generation;
allowing fruit to remain on the vine past the point of normal ripening; and
screening for reduced fruit water content as indicated by extended preservation of the ripe fruit and wrinkling of the fruit skin.”

 

 本ケースに於いて、拡大審判部に付託された質問は、以下の通りであった。

 

1.植物を交配しかつ選別する工程を含む非微生物学的な植物の製造方法は、これらのステップが、人の介入なしに自然に生じ得る現象を示し、かつ対応している場合にのみ、EPC53条(b)の除外に該当するのか?

2.質問1が否定的な回答の場合、植物を交配し選別する工程からなる非微生物学的な植物の製造方法は、技術的な性質の付加的特徴を、交配および選別の複数の工程の何れかのものとして含むという理由だけで、EPC53条(b)の除外から除かれるのか?

3.質問2が否定的な回答の場合、EPC53条(b)の特許保護の対象から除かれている非微生物学的な植物の生産方法と、除かれない方法とを区別するための実際的に意味のある基準は何であるか?特に、クレームされた発明の本質がどこにあるのか、及び/又は技術的な性質の付加的特徴が、クレームされた発明に通常の水準を超えて何らかの貢献をするのか否かが、関連するのか?

 

・拡大審判部の判断

 これらの事件で付託されたそれぞれの質問に対する拡大審判部の結論は、以下の通りである。

 

 1.植物の全ゲノムの有性交配、およびその後の植物の選別を含み、又はからなる非微生物学的な植物の生産方法は、原則として、EPC53条(b)の「本質的に生物学的な」ものとして特許の対象から除かれる。

 2.交配および選別の更なる工程、又は複数の工程のうちの何れかの部分として、全ゲノムを有性交配させ、その後植物を選別する工程の実行を可能にし、又は実行を助ける役目を果たす技術的性質の工程を含むので、その様な工程は、EPC53条(b)の例外を回避できない。

 3.しかしながら、その様な工程が、有性交配および選別の工程の中に技術的性質の追加的な工程を含むものである場合、即ち、工程自身が、生産された植物のゲノムに形質を導入し、又は転換するものである結果、その形質の導入又は転換が有性交配のために選ばれた植物遺伝子を混合する結果とならない場合、そのプロセスはEPC53条(b)の特許の対象から除外されない。

 4.プロセスがEPC53条(b)の「本質的には生物学的」なものとして特許の対象から除外されるか否かという審査の状況に於いては、技術的性質の工程が新規の手段か又は公知の手段か、公知のプロセスの通常の変更か又は根本的な変更か、自然に生じるものか又は生じ得るものか、発明の本質がその中にあるのか否かと、直接関連しない。

 

 尚、EPC 規則23b (6)では,「微生物学的プロセス」とは、微生物学的物質を含む,もしくは微生物学的物質に対して行われる,または微生物学的物質をもたらすプロセスをいうとされている。

 

(審決文) http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/E72204692CFE1DC3C12577F4004BEA42/$File/G1_08_en.pdf