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【知財高裁、特許】本願発明の構成の一部が刊行物に開示されていたとしても、かけ離れた発想で開示されているときは容易想到とはいえないとされた事例 医療用ゴム栓組成物事件



Date.2014年6月28日

知財高裁平成250321日判決 平成24(行ケ)10241 医療用ゴム栓組成物事件

 

・請求認容

・アロン化成株式会社 対 特許庁長官

・特許法292項 進歩性、引用発明の認定

 

(経緯)

 本件は、「医療用ゴム栓組成物」の発明に関する特許出願(特願2005-238059号,公開公報は特開2007-50138号)につき、その進歩性欠如の拒絶審決の当否が争われた事件である。

 

(本願発明)

 請求項1(補正後)

「 質量平均分子量が30万~50万であるスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体100質量部に対して,軟化剤160~200質量部,ポリプロピレン15~40質量部を配合した組成物であって,該組成物のJISK6253Aに規定する硬さが30~45であることを特徴とする医療用ゴム栓組成物。」(下線部は補正箇所)

 

(裁判所の判断)

1.引用発明の認定

 審決は、刊行物1(特開2001-258991号公報)に記載の引用発明を以下の通り認定していた。

「 重量平均分子量が20万~40万であるスチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体100部に対して,パラフィン系オイル50~300部,ポリオレフィン樹脂10~50部を配合した組成物であって,該組成物のJIS(DURO)のA硬度が20~70である医療用薬液用瓶若しくは袋の針刺し止栓の針刺部分。」

 

 これに対し裁判所は、刊行物1に記載の発明の構成は、「針刺部分を射出成形金型のキャビティ内に隙間を有して載置し,止栓本体の材料を射出成形金型と針刺部分とで区画された隙間を除いたキャビティに射出して成形した針刺し止栓であるところ,この針刺し止栓の針刺部分が補正発明に係る医療用ゴム栓組成物に相当する。そして,補正発明は,医療用ゴム栓組成物について,その組成と組成物の硬さを発明特定事項とするものであるから、」以下の通り認定すべきとした。

「 重量平均分子量で15万以上のスチレン・共役ジェンブロック共重合体の水素添加物であって前記共役ジェンがイソプレン及びブタジエンから選択される1種以上であるベースポリマー100部に対して,パラフィン系オイルを50~300部,及びポリオレフィン樹脂を10~50部配合した組成物であって,当該組成物のJIS(DURO)のA硬度が20~70である針刺し止栓の針刺部分組成物。」

 

 すなわち、裁判所は審決よりも、より限定した形で引用発明を認定しているが、この点については、「刊行物1に記載された発明が十分な液漏れ性能等の確保といった目的を達成するためには,止栓本体の成形時に針刺部分を針の針刺方向に撓ませて成形されたものであることが必要と解されるのに対し,補正発明では針刺部分を撓ませることは前提とされていないという点で技術思想が異なるものであり,このような差違を考慮しないまま上記認定の構成に包含されるからといって,その中の特定の構成を引用発明として認定するのは相当ではない。」と述べている。

 

2.本願発明と引用発明の対比

・相違点の認定

 裁判所は、本願発明と引用発明との相違点について以下の通り認定した。

「補正発明の医療用ゴム栓組成物は,質量平均分子量が30万~50万であるスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体をベースポリマーとする組成物であるのに対し,刊行物1における上記ベースポリマーは,重量平均分子量で15万以上のスチレン・共役ジェンブロック共重合体の水素添加物であって共役ジェンがイソプレン及びブタジエンから選択される1種以上のものであるから,両者は少なくともベースポリマーの成分で相違する部分がある。」

 

・相違点についての判断

 裁判所は、先ず、引用発明1が針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形することを,液漏れのない針刺し止栓を得るために必要としているのに対し,本願発明は、ゴム栓組成物の成形物が針の針刺方向に撓ませて止栓本体と一体化して成形されていなくとも,特許請求の範囲で特定された組成及び硬さを有するものであれば,使用時に液漏れを生じないものとして発明されたものであると指摘した。

 その上で、「針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形することを液漏れのない針刺し止栓を得るために必要とする刊行物1記載の針刺部分組成物のベースポリマーの種類及び分子量,パラフィン系オイル及びポリオレフィンの配合量,並びに硬さの範囲の中から,針刺部分を針の針刺方向に撓ませることが不要な特定の組成を見出すという発想は,刊行物1の記載から見出すことができず,刊行物1に記載の事項と補正発明とでは前提とする技術的思想が異なるものである。」と判断した。

 

 その結果、本願発明は、その技術的課題からの発想に伴うものであり,そのような発想である技術的思想が刊行物1には記載も示唆もない以上,そのような発想と離れた組成物が刊行物1に記載されているとしても,本願発明が容易想到であると認めるまでの記載はされていない、として本願発明の進歩性を肯定した。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130327100837.pdf