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判例・実務情報

(知財高裁、商標) 製造元が販売会社に無断で、商品名の商標登録を受けた行為は、47条1項の「不正競争の目的」には該当しない。



Date.2010年12月21日

平成21(行ケ)10173 パパウォッシュ事件 判決日:平成22年07月15日


 

・請求棄却

・商標法4条1項7号、10号、47条1項、56条1項、公序良俗、不正競争の目的、除斥期間、審理不尽、証拠調べ

・株式会社イー・エス・エス 対 株式会社シャローネ

 

 被告の株式会社シャローネは、商品名「シャローネ」の洗顔料を製造販売していた。被告会社は、原告の株式会社イー・エス・エスに対し、この洗顔料の販売の許可を与えた。原告会社はこの洗顔料を商品名「パパウォッシュ」で販売をした。尚、被告会社は、原告会社に販売許可を与えた後も、「シャローネ」の商品名で販売を続けていた。

 また、原告会社を設立したBは「パパウォッシュ」の商標登録出願をしたが、引用登録商標「パパ」を根拠として4条1項11号により拒絶査定を受けた。一方、被告会社を設立したAが本件商標「パパウォッシュ」について商標登録出願したところ、前記登録商標「パパ」の商標権が更新されていなかったことから、本件商標は登録査定となった。

 このことを知った原告会社は、Aが本件商標「パパウォッシュ」について無断で商標権を取得したことは道義上許されないなどとして、本件商標の譲渡を求めた。これに対し、被告は譲渡ではなく、独占的使用許諾およびその使用料の支払いを求めた為、原告会社は無効審判請求をした。

 

 特許庁は、本件商標は、商標法4条1項7号に違反して登録されたものではなく、また、同項10号を理由とする無効審判請求は認められないので、同法46条1項の規定により同登録を無効とすることはできないとした。

 本件は、この請求不成立審決を不服とした被告が知財高裁に訴えを提起した事件である。

  主な争点は、以下の通りである。

 1.審理不尽、理由不備

 2.証拠採否等の判断における手続上の違法

 3.4条1項10号の「不正競争の目的」の有無

 4.4条1項7号の公序良俗の該当性

  1.について

 原告は、無効審判における原告の主張の全てが「請求人の主張」の欄に記載されておらず、当事者の主張の一部分のみを恣意的に抜き出して結論を出している点で、審理不尽、理由不備の違法があると主張した。

 この主張に対し、裁判所は、「要約された内容が記載されているとしても、これは事実摘示の範囲の問題であって、審理不尽の有無とは直接関係がない」とした上で、「本件において、特許庁の審判官が、原告が記載漏れを指摘した事項につき、検討していなかったと認めるに足りる証拠はない。」と判示した。

 また、上告理由としての理由不備は、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けているこというものであり、審判手続も基本的に民事訴訟手続に準拠していることから、当該審判手続においても同様に解するのが相当であるとしながらも、本件に於いては、審決の論理が、それ自体で完結しており、結論を導き出すための理由の全部又は一部が欠けているものとはいえないとした。

 2.について

 原告は、無効審判に於いて尋問の申出をしていたが、審判官はこれを行わず、証拠採用しなかった。原告はこの点について、証拠採否等の判断における手続上の違法があると主張した。

 裁判所は、「審判官が、特定の事項につき、既に心証を形成している場合に、同事項に関し当事者が証拠の申出をしても、既に形成した心証に影響がないと考え得るとして、これを採用しなかったとしても、それ自体として違法になるものではない。」と判示した。

 また、審判官の心証の形成がどの時点であるべきかについては、「証拠申出の時点ではなく証拠採否の決定時点での心証形成の有無が問題となる」とした。

 3.について

 先ず、裁判所は、47条1項の「「不正競争の目的」の趣旨について、基本的に取引上の競争関係の存在を前提とした上で、「不正の利益を得る目的」や「他人に損害を加える目的」を指すと解すべきであり、取引上の競争関係がない場合には、より悪質な目的が必要というべきである。」と判示した。

 次いで、本件については、

・「パパウォッシュ」という文言を考え出したのがBであること、

・原告が本件商品の販売者であったとしても、Aが代表取締役を務めていた被告も、本件商品の製造者という立場にあったものであって、本件商品を製造する際に、本件商標と類似する引用商標を本件商品に付して、これを原告に引き渡すことにより、自己が本件商標ないし引用商標を使用していたこと、

・原告が、本件商品のデザイン等を被告に相談せずに独自に決定していたとしても、被告が本件商品の製造者であるという事実に変わりはなく、現に、本件商品の容器や外箱には、「パパウォッシュ」や「PAPAWASH」との記載のほか、製造元として被告の会社名が記載されていたこと、

を認定し、

 「本件は、同一ないし類似商標を正当に使用する二者間の問題であって、両者間に取引上の競争関係はなく、「全くの第三者が、商標の正当な使用者を妨害する目的で、同使用者が使用する商標と同一・類似商標を出願、登録した」ような事案とは大きく異なる」と判断した。

 そして、そもそも原告と被告は、本件商品の販売者、製造者という関係にあり、両者間に取引上の競争関係がなく、A(被告)に、「引用商標を付した本件商品の人気が高いにもかかわらず、同商標が登録されていないことに乗じて、先回りして同商標と類似する本件商標につき出願、登録を受けた上で、引用商標の使用者である原告との間で、交渉を有利にさせる意図」といった、原告に損害を加え、被告自身が不正の利益を得る意図があったものとは認められないとして、「不正競争の目的」が認められないと判示した。

 4.について

 裁判所は、先ず、商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について、以下の5つの場合を挙げている。

 ①その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合

 ②当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合

 ③他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合

 ④特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合

 ⑤当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合

 そして、本件については前記⑤の場合に該当するか否かを判断した。

 即ち、被告による本件商標の出願およびその登録を受けた行為は、第三者の参入を防止することを主たる目的とするものであって、本件商標を利用して原告との取引を有利にしようとしたものではなく、「Aによる本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない」ものとはいえない等と判断し、公序良俗に反するものではないとした。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100726105803.pdf