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判例・実務情報

【最高裁、特許】 均等論に関する最高裁判決(マキサカルシトール事件)



Date.2017年5月10日

平成29年3月24日 最高裁第二小法廷 マキサカルシトール事件(平成28(受)1242)(原審:知財高裁大合議 平成28年3月25日判決 平成27年(ネ)第10014号

・上告棄却
・均等論 第5要件(特段の事情)

(経緯)
被上告人(被控訴人、原審原告)は、「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許権(特許第3310301号)の共有特許権者であり、上告人ら(控訴人ら、原審被告ら)が輸入販売等に係る医薬品の製造方法が、本件特許発明と均等なものであるから、本件特許権を侵害するとして、東京地裁に訴えを提起した。
原審は、上告人らの製造方法が本件特許発明と均等であることを認め、また、本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して、被上告人の請求を全部認容した。
これに不服の上告人らは知財高裁に控訴したが、知財高裁大合議は被上告人の請求をいずれも認容した原判決は相当であり,上告人らの控訴はいずれも理由がないとして棄却した。  本件は、この判決に不服の上告人らが上告したものである。

(控訴審の判断)
知財高裁大合議は、均等の成否に関し、上告人方法が本件特許発明と均等なものであり、同発明の技術的範囲に属するとし、無効の抗弁の成否に関し、本件特許が無効にされるべきものではないとして、本件特許権の侵害を認めた。これらの判示事項のうち、均等の成否における第5要件について、知財高裁大合議は以下の通り判示している。

すなわち、「特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。」と判示した。

その理由について、裁判所は、以下の通り述べている。

①出願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許さないとすると、特許発明の実質的価値の及ぶ範囲が、これと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及ばなくなる。

 

②先願主義の下では,出願人に対し,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷である。その一方、第三者は,特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくないという状況がある。そのため、出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。

 

但し、裁判所は、例えば,出願人が明細書において他の構成による発明を記載しているときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには、出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとして、第5要件における「特段の事情」に当たると判示している。

そして、本件については、訂正明細書中に,訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とした発明を記載しているとみることができる記載はなく,その他,出願人が,本件特許の出願時に,トランス体のビタミンD構造を,訂正発明の出発物質として,シス体のビタミンD構造に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるに足りる証拠はないとして、均等の第5要件の充足を認めた。

(最高裁の判断)
本件における最高裁の判断は以下の通りである。
・出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合に、これが第5要件の特段の事情に該当するか否か。

この点につき、最高裁は、それだけでは特段の事情に該当しないと判示し、その理由を次の通り述べている。

①特許出願に係る明細書の開示を受ける第三者に対し,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものであることの信頼を生じさせるものとはいえず、当該出願人において,対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものとはいい難い。
 

②容易に想到することができた構成を特許請求の範囲に記載しなかったというだけで,特許権侵害訴訟において,対象製品等と特許請求の範囲に記載された構成との均等を理由に対象製品等が特許発明の技術的範囲に属する旨の主張をすることが一律に許されなくなるとすると,先願主義の下で早期の特許出願を迫られる出願人において,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲の記載を特許出願時に強いられることと等しくなる。
 

③明細書の開示を受ける第三者は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものを上記のような時間的制約を受けずに検討することができるため,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができる。

 

但し、最高裁は、上記の場合であっても,出願人が,特許出願時に,その特許に係る特許発明について,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載するなど,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,第5要件の特段の事情に該当するとした。

そして、最高裁は、本件における均等の成否における第5要件の充足につき、大合議判決を是認できると判断した。

(参照元)
最高裁HP ”平成28(受)1242 特許権侵害行為差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年3月24日 最高裁判所第二小法廷