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【最高裁、特許】 訂正審決の確定による再審事由の可否に関する最高裁判決(シートカッター事件)



Date.2017年7月21日

平成29年7月10日 最高裁第二小法廷 シートカッター事件(平成28(受)632)(原審:知財高裁 平成27年12月16日判決 平成26年(ネ)第10124号
 

・上告棄却
・特許法104条の3第1項、104条の4第1項、民訴法157条1項、338条1項8号、特許無効の抗弁、訂正の再抗弁、時機に遅れた攻撃防御方法、再審事由
 

(経緯)
(1) 上告人(被控訴人、原告)は、「シートカッター」に関する特許権(特許第5374419号)の特許権者であり、被上告人(控訴人、被告)の製造、譲渡等の行為が、本件特許権を侵害するとして、東京地裁に訴えを提起した(平成25年12月、平成25年(ワ)32665号)。被上告人は、本件特許が17条の2第3項(新規事項の追加)、36条1項4号(サポート要件)及び同条6項2号(明確性要件)に違反し無効理由を有するとして、無効の抗弁を主張した。東京地裁は、被上告の主張を認めず、上告人が請求する被上告人の製品の製造、譲渡等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を認容した(平成26年10月)。
 この判決に不服の被上告人は、知財高裁に控訴した上で、本件特許は,特許法29条1項3号又は同条2項に違反してされたものであり,本件特許には123条1項2号の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁を主張した(平成26年12月26日)。この無効の抗弁に対し、上告人は、控訴審の口頭弁論終結時までに,訂正により無効の抗弁に係る無効理由が解消されることを理由とする再抗弁(訂正の再抗弁)を主張しなかった。知財高裁は、本件特許が29条1項3号に違反するものであり、また被上告人の抗弁は時機に遅れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下されるべきものでもないとして、被上告人の控訴を認容した(平成27年12月16日)。
 本件は、この判決に不服の上告人が上告したものである。
 
(2) また、本件においては、控訴審の判決後において、以下のような経緯がある。
 すなわち、上告人は、控訴審判決に対して上告及び上告受理の申立てを行うと共に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判を請求している(平成28年1月6日、訂正2016-390002号)。この訂正審判において、特許庁は訂正を認める旨の訂正審決をし(平成28年10月)、その後確定している。
 
(3) 尚、被上告人は,本件特許に対して、上記新規事項の追加、サポート要件及び明確性違反を理由とする無効審判を特許庁に請求し(平成26年1月6日、無効2014-800004号)、特許庁は請求不成立の審決をしている(平成26年7月15日)。この審決に不服の被上告人は、その取消しを求めて知財高裁に審決取消訴訟を提起したが(平成26年(行ケ)第10198号)、知財高裁は被上告人の請求を棄却する判決をしている(平成27年12月16日、平成28年1月6日確定)。
 そのため、控訴審で新たな無効の抗弁が主張された時点では,上記審決取消訴訟が係属中であり,その後も平成28年1月6日まで審決が確定しなかったため,上告人は,控訴審の口頭弁論終結時までに,新たな無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は特許無効審判における訂正の請求をすることができなかった(126条2項、134条の2第1項)。
 

(上告受理申立て理由)
 本件の上告審係属中に本件訂正審決が確定し,本件特許に係る特許請求の範囲が減縮されたことにより,原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更されたものとして,民訴法338条1項8号に規定する再審事由があるといえるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというものである。
 

(最高裁の判断)
 本件における最高裁の判断は以下の通りである。
 最高裁は、先ず、104条の3、104条の4の規定の趣旨に関し以下の通り判示した。
 

・104条の3第1項が,特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要せずに無効の抗弁を主張することができるものとしているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決することを図ったものである。

・104条の3第2項が,無効の抗弁が審理を不当に遅延させることを目的として主張されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるものとしているのは,無効の抗弁について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためである。

・このことは,訂正の再抗弁についても異ならない。

・104条の4が,特許権侵害訴訟の終局判決が確定した後に訂正審決等が確定したときは,当該訴訟の当事者であった者は当該終局判決に対する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することができないものとしているのは,特許権侵害訴訟においては,無効の抗弁に対して訂正の再抗弁を主張することができるものとされていることを前提として,特許権の侵害に係る紛争を一回的に解決することを図ったものである。

 

 そして最高裁は、特許権侵害訴訟の終局判決の確定前であっても,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等の確定を理由として事実審の判断を争うことを許すことは,「終局判決に対する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することを認める場合と同様に,事実審における審理及び判断を全てやり直すことを認めるに等しい」と判示した。

 そのため、「特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。」とした。
 

 本件の場合、上告人は,原審の口頭弁論終結時までに,本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請求をすることが法律上できなかったが,これは原審で新たに主張された本件無効の抗弁に係る無効理由とは別の無効理由に係る別件審決に対する審決取消訴訟が既に係属中であり、別件審決が確定していなかったためであった。最高裁は、このような事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないことから,上記の事情を理由に,上告人が原審において本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張することができなかったとはいえないとして、上告を棄却した。
 

(参照元)
最高裁HP ”平成28(受)632  特許権侵害差止等請求事件 平成29年7月10日 最高裁判所第二小法廷