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判例・実務情報

【知財高裁、商標】 商標の類否判断における取引実情が参酌された事例 平成23(行ケ)10040号



Date.2013年2月5日

知財高裁平成23年6月29日判決 平成23(行ケ)10040号 CHOOP事件

 

・請求認容

・株式会社クラウン・クリエイティブ 対 有限会社ル・フリーク

・商標法4条1項11号、商標の類似、取引の実情

 

(経緯)

 原告は,下記「本件商標」記載の構成よりなり,指定商品を第25類「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽」とする商標登録第5230903号の商標権者である。

 被告は,下記「引用商標」記載の構成よりなり,指定商品を第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」とする商標登録第4832063号(引用商標)を引用して,本件商標登録の無効審判を請求した(無効2010-890048号事件)。

 特許庁は,本件商標登録を無効とする審決をした。本件はこの無効審決に不服の原告がその取消を求めて知財高裁に訴えを提起した事件である。

 

(争点)

 争点は、本件商標と引用商標の類否判断の誤りの有無である。

 

(裁判所の判断)

 先ず、以下の点については、当事者間に争いのない事実とされている。

 

・本件商標と引用商標は、共に「シュープ」の称呼を生じる。

・本件商標と引用商標とは,外観において相違している。また、本件商標及び引用商標は,いずれも一般的な観念が生じないことから観念において対比することができない。

・本件商標は、アメリカ生まれの元気なブランド,あるいはおしゃれでキュートなブランドというコンセプトの下,ティーン世代の少女層をターゲットとして,原告によって商標「CHOOP」が使用され,広告宣伝活動が継続された結果,引用商標の出願時及び査定時には,「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッションブランド」を想起させるものとして,需要者層を開拓してきた。

・,被告は,引用商標を構成する「Shoop」の欧文字について「セクシーなB系ファッションブランド」を想起させるものとして,需要者層を開拓してきた。

・本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は,同一又は類似する商品である。

 

・本件商標と引用商標の類否

 本件商標と引用商標の類否を判断するにあたっては、本件商標に係る取引の実情が参酌されている。

 すなわち、裁判所は、「本件商標に係る取引の実情をみると,原告は,前記1の(4)のとおり,商標「CHOOP」について,長期にわたり,指定商品等への使用を継続してきたこと,雑誌,新聞,テレビや飛行機内での番組提供,テレビCM等を利用して,宣伝広告活動を実施してきたこと,ファションブランド誌や業界誌にも紹介されていること,「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッションブランド」を想起させるものとして,需要者層を開拓してきたこと,その結果,同商標は,ティーン世代の需要者に対して周知となっていることが認められる。他方,引用商標を構成する「Shoop」の欧文字は,「セクシーなB系ファッションブランド」を想起させるものとして,需要者層を開拓してきた,そして,商標「CHOOP」の使用された商品に関心を示す,「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」を好む需要者層と,引用商標の使用された商品に関心を示す,いわゆる「セクシーなB系ファッション」を好む需要者層とは,被服の趣向(好み,テイスト)や動機(着用目的,着用場所等)において相違することが認められる。」と認定した。

 その上で、本件商標と引用商標の類否については、

 「本件商標と引用商標とは,外観が明らかに相違し,取引の実情等において,原告による「CHOOP」商標が広く周知されていること,需要者層の被服の趣向(好み,テイスト)や動機(着用目的,着用場所等)が相違することに照らすならば,本件商標が指定商品に使用された場合に取引者,需要者に与える印象,記憶,連想は,引用商標のそれとは大きく異なるものと認められ,称呼を共通にすることによる商品の出所の誤認混同を生じるおそれはないというべきである。したがって,本件商標と引用商標は類似しないと判断すべきである。」

とした。

 

 これに対し被告は、『ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション』及び『セクシーなB系ファッション』以外の『一般消費者』については,両商標の称呼が共通することにより,混同が生じるおそれがある、と主張したが、裁判所は、「原告の「CHOOP」商標の宣伝広告が,特定の需要層を対象としたものであったとしても,長年の使用と多大の広告活動等によって,「CHOOP」商標の周知が図られていること等の点を考慮するならば,一般消費者にとっても,本件商標と引用商標とは,称呼が共通することのみをもって,商品の出所について混同が生じるおそれがあるとはいえない。」と判断した。

 その結果、本件商標と引用商標とが類似するとした審決の判断には誤りがあるとして、本件審決を取り消した。

 

 本件では、外観の相違及び取引の実情を考慮して両商標が非類似とされた。

 商標の類否判断における取引実情の参酌については、最(三小)判昭和43 2 27 日民集22 2 399 頁〔氷山印事件〕が、「商標の類似は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」と判示している。

 

 この氷山印事件は、要約すれば、外観、観念、称呼のうち一つでも類似すれば商標は類似だとする従来の考え方を改め、類否判断には取引の実情を考慮すべきであるとした点に意義がある。

 そして、商標の煩否判断において考慮されるべき取引の実情は、「局所的あるいは浮動的な取引の実情」は含まれておらず、「普遍的・固定的な取引の実情」であることが必要であるとされている。

 

 しかしながら、本判決は、「商標「CHOOP」の使用された商品に関心を示す、「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」を好む需要者層と、引用商標の使用された商品に関心を示す、いわゆる「セクシーなB系ファッション」を好む需要者層とは、被服の趣向(好み、テイスト)や動機(着用目的、着用場所等)において相違することが認められる。」などと述べていることからも分かる通り、局所的あるいは浮動的な取引の実情を参酌して商標の類否判断をおこなっており、この点で注目される。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110630104057.pdf