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【知財高裁、商標】 色彩商標の自他商品識別機能の有無が争われた事例 令和1(行ケ)10146号 油圧ショベル事件



Date.2021年3月12日

知財高裁令和2年8月19日判決 令和1(行ケ)10146号 油圧ショベル事件
 
・請求棄却
・商標法3条1項3号、同条2項
・自他商品識別機能、自他商品識別力、独占適応性
 
(経緯)
 原告は、第7類「油圧ショベル」を指定商品として、以下のように、色彩のみからなり、かつ、油圧ショベルのブーム、アーム、バケット、シリンダチューブ、建屋カバー及びカウンタウエイトの部分をタキシーイエロー(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)とする構成からなる商標について、商標登録出願を行った。

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 原告は、審査に於いて拒絶査定を受けたため拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は請求不成立の審決をした。本件は、この審決に不服の原告が知財高裁にその取消しを求めて訴えを提起したものである。
 
(争点)
 主な争点は、以下の通りである。
1.商標法3条2項の要件の判断の誤り
 
(裁判所の判断)
1.単一の色彩のみからなる商標と商標法3条2項について
 (1)3条1項3号
 裁判所は、先ず、3条1項3号に規定する商標(「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格」を「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」)が、商標登録の要件を欠くとされる趣旨に関し、「ワイキキ事件」を引用し、以下の様に述べた。

「同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされる趣旨は,このような商標は,商品の産地,販売地,品質その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであり,独占適応性を欠くとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことによるものと解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)。」

 
 そして、色彩のみからなる商標に於いて、商品の色彩は商品の特性であるといえるから、3号の「その他の特徴」に該当し、「取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,原則として何人も自由に選択して使用できるものとすべき」であるとして、単一の色彩のみからなる商標は3号の趣旨が妥当するとした。
 
 (2)3条2項
 3条2項は、出願商標が3条1項3号に該当する商標であっても、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」である場合は、商標登録を受けることができると規定されている。

 そして、単一の色彩のみからなる商標が3条2項に該当するとして商標登録を受けることができるためには、「商標が使用をされた結果,特定人の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り,その使用により自他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり,さらに,同条1項3号の前記趣旨に鑑みると,特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要すると解するのが相当である。」と判示した。
 
2.本願商標の3条2項の該当性
 (1)使用による識別力の獲得
 裁判所は、以下の様な事実認定を行った。
 

・指定商品の需要者は、建設業者、建設機械を取り扱う販売業者及びリース業者のみならず,農業従事者及び林業従事者,農機及び林業機械を取り扱う販売業者等も含まれる。

・原告の油圧ショベルの販売実績,シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色彩が原告の油圧ショベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認識されているが、本願商標は,色彩及び色彩の付する位置がありふれたものであって,その構成態様は特異なものとはいえない。

・原告の油圧ショベルには著名商標が付されており,原告の油圧ショベルの出所が現に認識されことが否定できない。

・原告の広告宣伝は,これに接した需要者に対し,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強い結びつきがあることまで印象付けるものとはいえない。

・原告以外の複数の事業者が本願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体の一部に使用した油圧ショベルを販売している。

・原告による本願商標のアンケート調査は、需要者の一部の認識を反映したものにとどまり、農業従事者等の認識は反映されていない。

 
 裁判所はこれらを総合考慮して,「本願商標は,その使用により自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得したものと認めることはできない。」と判示した。
 
(2)本願商標の独占適応性
 裁判所は、人の視覚によって、本願商標のオレンジ色と同系色のオレンジ色を厳密に識別することに限界があること、本願商標は、色彩を付する位置を特定した、単一の色彩のみからなる商標であり、色彩を付する位置の部分の形状や輪郭に限定がないため、本願商標の商標登録が認められた場合の商標権の禁止権(商標法37条)の及ぶ範囲は広くなること等を理由に挙げ、原告において油圧ショベルにおける本願商標の独占的使用を認めることは適当でないと判示した。
 
 以上より、裁判所は、本件審決の判断に誤りはないとして、原告の請求を棄却した。

 
(参照元)
知財高裁HP ”令和1(行ケ)10146 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 令和2年8月19日 知的財産高等裁判所