E

判例・実務情報

(大阪地裁、不正競争) 平成21(ワ)6755 商品陳列デザインは不正競争防止法の保護対象ではないとされた事例



Date.2011年1月5日

平成21(ワ)6755 不正競争行為差止等請求事件 平成22年12月16日判決

 

 ・請求棄却

 ・株式会社西松屋チェーン 対 イオンリテール株式会社

 ・不正競争防止法2条1項1号、2号、商品等表示、不正競争

 

 原告の株式会社西松屋チェーンは、原告がその店舗に於いてベビー・子供服の陳列のために使用している商品陳列デザインが原告の営業表示として周知・著名であり、被告のイオンリテール株式会社がその店舗において使用している商品陳列デザインが原告の商品陳列デザインと類似するとして、不正競争防止法2条1項1号、2号に基づき、その使用の差し止め等を求めて、大阪地裁に訴えを提起した。

 

(争点)

 主な争点は以下の通りである。

 ① 原告商品陳列デザインは周知又は著名な原告の営業表示であるか

 ② 被告の行為が不法行為を構成するか

 

(裁判所の判断)

 ① 原告商品陳列デザインは周知又は著名な原告の営業表示であるか

 本件に於いては、先ず、商品陳列デザインが2条1項1号、2号の商品等表示(営業表示)に該当するか否かが争われた。

 大阪地裁は、原則として、商品陳列デザインは、営業主体の出所表示を目的とするものではなく、本来的には営業表示に当たらないと判示した。しかし、顧客によって営業主体との関連性に於いて認識・記憶され、やがて営業主体を想起させるようになる可能性があることは否定できないとして、原告商品陳列デザインが営業表示性を有するか否かを判断している。

 

「・・・そもそも商品陳列デザインとは,原告も自認するとおり「通常,いかに消費者にとって商品を選択しやすく,かつ手にとりやすい配置を実現するか,そして,如何に多くの種類・数量の商品を効率的に配置するか,などの機能的な観点から選択される」ものであって,営業主体の出所表示を目的とするものではないから,本来的には営業表示には当たらないものである・・・。

 イ しかし,商品陳列デザインは,売場という営業そのものが行われる場に置かれて来店した需要者である顧客によって必ず認識されるものであるから,本来的な営業表示ではないとしても,顧客によって当該営業主体との関連性において認識記憶され,やがて営業主体を想起させるようになる可能性があることは一概に否定できないはずである。

 したがって,商品陳列デザインであるという一事によって営業表示性を取得することがあり得ないと直ちにいうことはできないと考えられる。」

 

 但し、商品陳列デザインが営業表示性を有するか否かについては、当該商品陳列デザインそのものが,それだけでも売場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であるとし、かかる観点からその判断を行った。

 

「ウ ただ,商品購入のため来店する顧客は,売場において,まず目的とする商品を探すために商品群を中心として見ることによって,商品が商品陳列棚に陳列されている状態である商品陳列デザインも見ることになるが,売場に居る以上,それと同時に什器備品類の配置状況や売場に巡らされた通路の設置状況,外部からの採光の有無や照明の明暗及び照明設備の状況,売場そのものを形作る天井,壁面及び床面の材質や色合い,さらには売場の天井の高さや売場の幅や奥行きなど平面的な広がりなど,売場を構成する一般的な要素をすべて見るはずであるから,通常であれば,顧客は,これら見たもの全部を売場を構成する一体のものとして認識し,これによって売場全体の視覚的イメージを記憶するはずである。

 そうすると,商品陳列デザインに少し特徴があるとしても,これを見る顧客が,それを売場における一般的な構成要素である商品陳列棚に商品が陳列されている状態であると認識するのであれば,それは売場全体の視覚的イメージの一要素として認識記憶されるにとどまるのが通常と考えられるから,商品陳列デザインだけが,売場の他の視覚的要素から切り離されて営業表示性を取得するに至るということは考えにくいといわなければならない。

 したがって,もし商品陳列デザインだけで営業表示性を取得するような場合があるとするなら,それは商品陳列デザインそのものが,本来的な営業表示である看板やサインマークと同様,それだけでも売場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であると考えられる。

 

 原告商品陳列デザインについては、来店者のための商品取り棒の設置が原告独自の特徴であると認められたものの、それ自体は,現実の商品陳列状態のもとでは視覚的に大きな構成要素とはいえず、需要者に認識記憶されるような場合があるとしても,それは営業方法として取りにくい高さにある商品も顧客自らが取るという一種のセルフサービスを採用していると認識され記憶されるものであるとした。

 

 その上、原告商品陳列デザインは、売場全体に及んでいる原告店舗の特徴に調和し,売場全体のイメージを構成する要素の一つとして認識記憶されるものにとどまると見るのが相当であり,顧客が,これらだけを売場の他の構成要素から切り離して看板ないしサインマークのような本来的な営業表示と同様に捉えて認識記憶するとは認め難いと判断した。

 

 尚、大阪地裁は、原告の商品陳列デザインは、店舗運営管理コストの削減効果をもたらすものであって、原告独自の営業方法ないしノウハウの一端が具現化したものであり、その様な性質を有する原告商品陳列デザインを不競法により保護するのは、原告の営業方法ないしアイデアそのものを原告に独占させる結果を生じさせることになりかねず,不正競争防止法の立法目的に照らして相当でないと判示している。

 

「・・・原告において売上増大を目的としてされた商品陳列デザイン変更の到達点として確立した原告商品陳列デザインは,商品の陳列が容易となるとともに,顧客が一度手にとった商品を畳み直す必要がなくなり,見やすさから顧客自らが商品を探し出し,それだけでなく高いところの商品であっても顧客自らが取る作業をするので,そのための店員の対応は不要となり,結果として少人数の店員だけで店舗運営が可能となって,店舗運営管理コストを削減する効果を原告にもたらし,原告事業の著しい成長にも貢献しているものと認められるのであるから,原告商品陳列デザインは,原告独自の営業方法ないしノウハウの一端が具体化したものとして見るべきものである。

 そうすると,上記性質を有する原告商品陳列デザインを不正競争防止法によって保護するということは,その実質において,原告の営業方法ないしアイデアそのものを原告に独占させる結果を生じさせることになりかねないのであって,そのような結果は,公正な競争を確保するという不正競争防止法の立法目的に照らして相当でないといわなければならない。

 したがって,原告商品陳列デザインは,仮にそれ自体で売場の他の視覚的構成要素から切り離されて認識記憶される対象であると認められたとしても,営業表示であるとして,不正競争防止法による保護を与えることは相当ではないということになる。」

 

 ② 被告の行為が不法行為を構成するか

 大阪地裁は、原告商品陳列デザインが原告の営業資産であり、また被告が原告店舗の商品陳列デザインを参考にしたことは否定できないとしながらも、原告商品陳列デザインは,店舗の運営管理コストを低減させるという営業方法ないしノウハウが化体したものと見るべきものであって,特定の事業者によって独占されるべきものではないとした。

 また、参考の程度では模倣にまで至っておらず、結論として、裁判所は、被告の行為をもって著しく不公正であり,公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において許されないとの原告の批判は当たらないとして、不法行為の成立を否定した。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101227182046.pdf