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判例・実務情報

【大阪地裁、意匠】 新規な創作部分の存否等を参酌して意匠の要部を把握するとした事例



Date.2011年10月27日

平成23年9月15日判決 平成22年(ワ)9966 (マニキュア用やすり事件)

・請求認容(差止め及び損害賠償請求が認められた)

・株式会社グリーンベル(原告)

  対 株式会社コスモビューティー および 株式会社大創産業 (被告)

・意匠法24条2項、意匠の類似

 

(経緯)

・原告は、ネイルケア製品及び化粧小物の製造販売等を業とする株式会社であり、物品「マニキュア用やすり」の意匠権(本件意匠権。登録番号 第1127832号)を保有していた。
・一方、被告 株式会社コスモビューティーは、ネイルケア製品及び化粧小物の販売等を業とする株式会社であり、商品「爪やすり」(被告商品)を輸入し卸売販売していた。
・卸売販売された被告商品は、被告 株式会社大創産業(各種小物の販売等を業とする株式会社)の店舗(100円ショップの「ダイソー」)で小売販売された。
・これに対し、原告は、被告商品の製造・販売行為等が,本件意匠権を侵害する行為であると主張して、大阪地方裁判所に差止及び損害賠償請求を求めた。

 

(争点)

(1) 被告意匠は本件意匠に類似するか (争点1)
(2) 原告の損害 (争点2)

 

(本件意匠)

 

(被告意匠)

 

 

(公知意匠)

 

 

(裁判所の判断)

 裁判所は、まず、本件意匠及び被告意匠について、基本的構成態様、具体的構成態様を認定し、次いで、意匠の類似性について、次のように判示した。

 

「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。
 したがって,その判断にあたっては意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。」

 

 そして、この判断基準から、「(ア) 爪やすりの性質,用途,使用態様」「(イ) 公知意匠(甲3意匠)」を参酌して、意匠の要部を次のように判断した。

 

「前記(ア)からすれば,爪やすりについて,需要者は,デザイン全体に着目すると考えられるところ,前記(イ)からすれば,爪やすりにおいて,本体がD字状であること,下端面にやすりが配設されていること,把持する面に隆起部が設けられ凹凸がついていることなどの基本的な構成は,本件意匠の出願時において公知であったと認められる
 したがって,本件意匠において,需要者の注意が惹き付けられる要部は,本体,隆起部,やすりに係る具体的な形状であると認められる。」

 

 次に、裁判所は、本件意匠及び被告意匠の共通点及び差異点を認定し、本件意匠と被告意匠の類否について、次のように判断した。

 

「本件意匠の要部は,本体,隆起部,やすりに係る具体的な形状にあると認められるところ,前記(3)ア(補足:本件意匠及び被告意匠の共通点のこと)の共通点は,この要部に係る共通点である。
 そして,前記(3)イ(補足:本件意匠及び被告意匠の差異点のこと)の個別の差異が美感に与える影響については,以下に個別に述べるとおり,その差異から受ける印象が,前記(3)アの共通点から受ける印象を凌駕するものではないから,本件意匠と被告意匠は,視覚を通じて起こさせる美感を共通にしているということができ,類似するものというべきである。」

 

・大きさの違いについて
「・・・,爪やすりという物品に考えられる大きさの範囲内の中での,上記大きさの違いは,それほど大きいものとはいえない。また,被告意匠は,本件意匠の要部において,本件意匠と構成を共通にするため,上記程度の差で大きさが違ったとしても,「同じデザインで異なるサイズのもの」との印象を与えるといえる」
・鎖が備えついていることについて
「・・・被告意匠は,本件意匠と基本的構成を共通にし,要部を共通にするため,ありふれた形状の球状鎖が付属していたとしても,「同じデザインで鎖付きのもの」との印象を与えるにすぎず,全体として異なる美感を与えるものではない。」
・隆起部内側の傾斜下端と平面部との間に境界があるか否かについて
「上記境界は,視覚的に目立つものではなく,注意して観察して初めて,それと気づかれるものであるし,本件意匠においても,隆起部内側の傾斜と平面部とを区切る線こそ存在しないものの,隆起部,隆起部内側の傾斜,平面部の各範囲が,被告意匠と大きく異なるわけでもない。
 したがって,隆起部内側の傾斜下端と平面部との境界が存在することは,被告意匠に,本件意匠とは異なる美感を生じさせるだけの,強い印象を与えるものではない。」

 

 裁判所は、損害額の算定で、被告製品が原告製品よりも安いことが、意匠法39条1項の「譲渡数量の全部または一部に相当する数量を意匠権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情」に該当すると判断し、損害額からこの事情分減額した。

 

「絶対的な価格差でみると,原告がいうように,その差はわずか数百円という見方もできるが,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。
 そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。」

 

(補足)
 平成18年意匠法改正 意匠法24条2項について、知財高裁でも同様の判断がされている(平成22年(ネ)第10014号)。
知財高裁は、公知意匠を参酌する理由を以下のように述べている。
「意匠の新規性(意匠法3条1項)及び創作非容易性(同条2項)という創作性の登録要件を充足して登録された意匠の範囲については,その意匠の美感をもたらす意匠的形態の創作の実質的価値に相応するものとして考えなければならず,公知意匠を参酌して,登録意匠が備える創作性の幅を検討する必要があるため,公知意匠を参酌することの必要性は,意匠法41条によって特許法104条の3が準用されるようになった後においても,完全に失われてはいないというべき」である。

(判決文)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110921110143.pdf