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判例・実務情報

(大阪地裁、特許) 冒認出願により登録された特許権の真の権利者への移転登録請求は認められない。



Date.2010年12月20日

 平成21年(ワ)第297 判決日:平成22年11月18日

・請求棄却 

・冒認出願、移転登録請求、真の権利者、職務発明 

・株式会社デーロス 対 株式会社ビルドランド

 原告の(株)デーロスは、旧田中建設株式会社が旧株式会社デーロス(以下、旧デーロスという)を吸収合併した後に、その商号を変更した会社である。原告の代表取締役は、P1である。

 旧デーロスは、原告に吸収合併された当時、P2が代表取締役を務めていた。

 被告の(株)ビルドランドは、P2が、平成11年12月以降現在に至るまで代表取締役を努めており、旧デーロスが原告に吸収合併(平成16年6月1日)された以降は平成19年12月23日までの間、P1とともに原告の代表取締役も務めていた。

 被告は、その代表取締役であるP2を発明者として、P1とともに原告の代表取締役も務めていた時期に複数の特許出願をした。また、出願後に、出願人の名義をP2から被告に変更もしていた。これらの特許出願の一部は、その後、設定登録がなされた。

 これらの発明について、原告は、すでに特許権が発生しているものについては、被告に対し、それらの移転登録請求手続を求め、また、出願中のものについては、それらの発明についての特許を受ける権利を自らが有していることの確認を求め、訴えを提起した。

 本件における主な争点は、以下の通りである。

 ①原告は本件各発明について特許を受ける権利を承継したか

 ②原告が本件各特許権の移転登録手続を求めることができるか

①について(原告は本件各発明について特許を受ける権利を承継したか)

 本件各発明のうち、本件発明1、2、4については、原告は、P2が発明者であることは認めているが、これらの発明については、その特許を受ける権利がP2から原告に承継されている旨を主張した。また、P2が発明者であることを争っている発明についても、その発明者がP2であるのなら、その特許を受ける権利はすべてP2から原告に承継されていると主張した。

 大阪地裁は、この主張に対し、原告とP2の間に特許を受ける権利の承継合意があったか否かの観点から判断をし、当該特許を受ける権利の承継合意の存在を示す直接的証拠がなかったことなどを理由に原告の主張を斥けた。

②について(原告が本件各特許権の移転登録手続を求めることができるか)

 この点について、大阪地裁は、以下の通り、特許法の規定が、冒認出願に基づいて特許権の設定登録がされた場合には、当然には、発明者等が冒認出願者に対する特許権の移転登録手続を求めることはできない規定構造になっているものと解されると判示している。

 

 「特許を受ける権利を有する者は、特許法の規定に従って、特許出願をして特許登録を受けることにより、特許権者となることができる。特許を受ける権利は、発明と同時に発生し、発明者に原始的に帰属する。この権利は移転することができるから、特許を受けられるのは、発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者(以下「発明者等」という。)に限られる(特許法29条1項柱書、33条1項)。

 そして、特許法は、発明者等でない者による特許出願(以下「冒認出願」という。)については拒絶査定すべきこと(同法49条7号)、冒認出願に基づいて特許登録がされた場合には特許が無効とされること(特許法123条1項6号)をそれぞれ規定するとともに、発明者等の救済として、冒認出願を先願から除外する規定(29条の2括弧書き、39条6項)及び新規性喪失の例外とする規定(30条2項)を設け、一定の条件の下で発明者等が特許出願することにより特許を受けられる場合があることを規定しているが、これはいずれも冒認出願による特許の無効を前提に、発明者等に別途に特許を受ける方法を残しているにすぎないものである。

 以上からすると特許法の規定は、冒認出願に基づいて特許権の設定登録がされた場合には、当然には、発明者等が冒認出願者に対する特許権の移転登録手続を求めることはできない規定構造になっているものと解される。

 その結果、本件については、原告の主張事実を前提としても、本件各特許権は冒認出願の結果得られた特許として無効と扱われる可能性があるだけであって、原告が本件発明1ないし本件発明3についての特許を受ける権利に基づき、これら本件各特許権の有効を前提として、被告に対し、その移転登録手続を求めることはできない、と判断した。

 また、原告は、

 ・本件各特許権を被告が有するという事実関係は、原告が被告(被告と同視しうる被告の代表取締役であるP2)の行為によって、財産的利益である特許を受ける権利を失ったのに対し、被告が法律上の原因なしに本件各特許権を得ている関係にあること

 ・P2は、職務発明についての特許を受ける権利を原告に譲渡した者であり、しかも原告の代表取締役として原告を出願人として出願すべき立場にあった者であるから、本件各発明に関するP2又はP2が代表取締役を務める被告の特許出願行為は、原告による特許出願行為と同視すべきであること

 ・従って、本件各特許権は、原告が有していた特許を受ける権利と連続性を有し、それが変形したものであり、最高裁平成13年6月12日第三小法廷判決(生ごみ処理装置事件)に照らし、本件各特許権の移転登録請求は認められるべきであると主張した。

 この主張に対し、大阪地裁は、そもそも原告自身が特許出願をしておらず、被告の特許権との連続性や変形したものであると評価することはできない等と指摘。現行の特許法の規定構造を前提とする限り、原告の被告に対する本件各特許権の移転登録手続請求を認めることはできない、とした。

 

本件において原告が主張する上記事実関係がすべて認められたとしても、それは要するに発明者等と一定の契約関係ないし権利義務関係にある者が冒認出願をした結果、その者を特許権者として特許権が設定登録されたということにすぎず、その事実関係は、特許権の無効をもたらす典型的な冒認出願の事実関係と異なるところはないといわなければならない。また、そもそも原告自身は、特許出願を全くしていないのであるから、本件各特許権が原告が有していた特許を受ける権利と連続性を有し、変形したものと評価する余地はないというほかない。そうすると、原告主張にかかる本件の事実関係に平成13年度最高裁判決の判例法理が及ぶとする原告主張は失当であって、現行の特許法の規定構造を前提とする限り、上記主張に係る事実関係に基づく原告の被告に対する本件各特許権の移転登録手続請求は認めることができないといわなければならない。

 尚、大阪地裁は、平成13年最高裁判決について、「当該判例は、上記説示した冒認出願に関する現行特許法の規定構造を前提としても、特許を受ける権利を有する者が特許出願をしたなどの判示した一連の事実関係のもとでは、設定登録された特許権が、特許を受ける権利と連続性を有し、変形したものであると評価できることなどから、例外的に特許を受ける権利を有していた者の救済のために特許権の移転登録手続を請求することを認める余地がある旨判示したものと解すべきものである。」と判示している。

 冒認出願による特許権に対しては、無効審判の請求、損害賠償請求、特許権の移転登録手続請求などの対抗措置が考えられる。特許権の移転登録手続請求について言えば、現在の実務に於いては、真の権利者が自ら出願していないと、移転登録手続の請求が認められないであろう(東京地判平成14年7月17日判時1799号155頁〔ブラジャー事件〕)。

 特許権の設定登録前の出願人の名義変更については、真の権利者が特許を受ける権利を有することの確認訴訟の確定判決が得られていれば、その変更が認められているが(東京地判昭和38年6月5日〔自動連続給粉機事件〕)、この場合には真の権利者が自ら出願をしていたか否かは問われない。

 真の権利者に対する救済手段としては、他にも、新規性喪失の例外規定の適用が考えられるが、いずれの救済手段についても、以前からその限界が指摘されていた。現在、特許庁の産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会では、真の権利者が出願したか否かにかかわらず、特許権設定登録後に特許権の移転請求を認める制度の導入が検討されている(参照http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/shingikai/sangyou_kouzou.htm)。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101203115717.pdf