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判例・実務情報

【大阪地裁、特許】 機能的クレームにおいては、明細書に開示された内容から当業者が容易に実施することができないものであれば,その技術的範囲には属さないとされた事例



Date.2012年12月11日

大阪地裁平成24年11月8日判決 平成23(ワ)10341号 パソコン等の器具の盗難防止用連結具事件

 

・請求棄却

・有限会社ケイ・ワイ・ティ 対 サンワプライ株式会社

・特許法100条1項、機能的クレームの解釈

 

(経緯)

 原告の有限会社ケイ・ワイ・ディは、「パソコン等の器具の盗難防止用連結具」の特許発明(第3559501号)に係る特許権者である。

 被告は被告各製品を販売等していたところ、原告は上記の特許権に基づきその差止めと損害賠償等を求め、訴えを提起した。

 

(本件発明および被告製品)

 本件発明1は以下の通りである。

A パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入される盗難防止用連結具であって,

B 主プレートと補助プレートとを,スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレートは分離不能に保持され,

C 主プレートは,ベース板と,該ベース板の先端に突設した差込片と,該差込片の先端に側方へ向けて突設された抜止め片とを具え,

D 補助プレートは,主プレートに対して,前記主プレートの差込片の突出設方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板と,該スライド板を差込片の突出方向にスライドさせたときに,差込片と重なり,逆向きにスライドさせたときに,差込片との重なりが外れるように突設された回止め片とを具え,

E 主プレートと補助プレートには,補助プレートを前進スライドさせ,差込片と回止め片とを重ねた状態で,互いに対応一致する位置に係止部が形成されていることを特徴とする

F パソコン等の器具の盗難防止用連結具。

 

 

 

 また、被告製品の構成は以下の通りである。

a パソコンの本体ケーシング(84’)に開設された盗難防止用のスリット(82′)に挿入される盗難防止用連結具であって,

b 主プレート(20’)と補助部材(40’)とを,後記差込片(24’)と後記突起部(44’)の重なりが生じている間,該スリット(82’)への挿入方向と近い距離を保って離れずにいる方向に,ずらすことができるように係合し且つ両プレート(20’)(40’)は分離不能に保持され,

c 主プレート(20’)は,ベース板(22’)と,ベース板(22’)のうち前記盗難防止用連結具をスリットに挿入する際にスリット(82)に近くなる方の側に突設した差込片(24’)と,該差込片(24’)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26’)とを具え,

d 補助部材(40’)は,主プレート(20’)に対して,前記主プレート(20’)の差込片(24’)と補助部材(40’)に突設された突起部(44’)の重なりが生じている間,差込片(24’)の突出方向と近い距離を保って離れずにいる方向に,ずらすことができるように係合した回動板(42’)と,該回動板(42’)を差込片(24’)の突出方向にスライドさせたときに,差込片(24’)と重なり,逆向きにスライドさせたときに,差込片(24’)との重なりが外れるように突設された突起部(44’)とを具え,

e 主プレート(20’)と補助部材(40’)には,差込片(24’)と突起部(44’)の重なりが生じている間,補助部材(40’)を,スリット(82’)への挿入方向と近い距離を保って離れずにいる方向にずらし,差込片(24’)と突起部(44’)とを重ねた状態で,互いに対応一致する係止部(28’)(48’)が形成されている

f パソコンの盗難防止用連結具。

 

(争点)

 裁判所で判断された争点は、以下の通りである。

・構成要件Bの充足性

・構成要件Dの充足性

・構成要件Eの充足性

 

(裁判所の判断)

 上記争点のうち、構成要件Bの充足性については、以下の通り判断されている。

本件発明1の構成要件B「主プレートと補助プレートとを,スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレートは分離不能に保持され,」の意義について

 

 原告は、主プレートと補助プレートをスライドさせる構成について,公知技術等,当業者が適宜採用しうるあらゆる構成が含まれるとした上,被告各製品の構成(主プレートと補助部材とを,ピンによって一端を枢結し,回動自在に結合する構成)もこれに含まれると主張した。

 

 この主張に対し、裁判所は、まず本件明細書の発明の詳細な説明の記載を検討した。

 その結果、「本件明細書には,主プレートと補助プレートのスライドに関する構成について,従来技術及び実施例のいずれにおいても,差込片をスリットへ挿入する方向(ないし差込片の突出方向)に向かって,直線的に互いに前後移動(スライド)する構成のものしか開示されていない。」と認定した。

 

 また、裁判所は、本件発明のような機能的クレームについては、「【特許請求の範囲】や【発明の詳細な説明】の記載に開示された具体的な構成に示されている技術思想(課題解決原理)に基づいて,技術的範囲を確定すべきものと解される。また,明細書に開示された内容から,当業者が容易に実施しうる構成であれば,その技術的範囲に属するものといえるが,実施することができないものであれば,技術思想(課題解決原理)を異にするものして,その技術的範囲には属さないものというべきである。」とした。

 その上で、被告製品については、「スライド可能に係合」及び「分離不能に保持」という機能を実現するため,本件明細書等で開示された技術思想とは原理的に異なる構成を採用していたことから、「当業者が,技術常識等を参酌することにより,本件明細書の記載に基づき,容易に実施することができるものであったとは認めることができない。 」と判断した。

 

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121116134220.pdf