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判例・実務情報

(東京地裁、意匠) パリ条約による優先権主張の手続において提出を要する優先権証明書には、その写しは許されない。



Date.2010年12月19日

平成21年(行ウ)第540号、手続却下処分等取消請求事件 判決日:平成22年10月08日  

 

・請求棄却  

・意匠法15条1項、特許法18条の2、43条2項、パリ条約4条D、優先権主張、共同体意匠、優先権証明書、OHIM  

・インヴィトロジェン ダイナル エーエス 対 国

 

 東京地裁は、パリ条約による優先権主張の手続において提出を要する優先権証明書について、その写しを提出したことにより特許庁が意匠法68条2項、特許法18条の2第1項の規定により却下した処分は適法であるとした。

 詳細は下記の通りである。 原告(インヴィトロジェン ダイナル エーエス)は、「域内市場における調和のための官庁(商標及び意匠)」(Office for Harmonization in the Internal Market,以下「OHIM」という。)出願を基礎とするパリ条約による優先権主張をして我が国の特許庁に意匠登録出願をした。

 

 その後、優先権証明書の提出手続に於いて、原告は、OHIMの発行した認証謄本のうち表紙を含む2枚分を複写(コピー)したもの及びその訳文を添付して、優先権証明書提出書(以下「本件提出書」という。)を提出した。複写(コピー)された書面には、本件出願の優先権の基礎となる出願の登録日(出願日)、基礎出願の登録番号(出願番号)、この優先権証明書がOHIMによって発行されたものであることが記載されていたが、登録共同体意匠を記載した図面はなかった。

 

 特許庁は、優先権証明書の原本が添付されていなかったことから、却下すべきものと認められる旨の通知をし、原告に弁明の機会を与えた。原告は、コピーによる優先権証明書の提出は、補正の機会が与えられない法的瑕疵に該当しないとして、原本の優先権証明書の提出機会が与えられるべきであるとの弁明書を提出した。

 しかし、特許庁は、本件手続が不適法なものであって補正することができないものであるとして、却下処分とした。この処分を不服とした原告は、東京地裁に訴えを提起した。

 

 特許庁の却下処分の適法性において争点となったのは、大きく分けて以下の2点である。

 ①パリ条約による優先権主張の手続において提出することが要求される優先権証明書には、その写しが含まれるか。

 ②上記優先権証明書には写しが含まれないとして、当該手続は、補正をすることができないものであるか否か。

 

①について

 東京地裁は、「意匠法15条1項が準用する特許法43条2項は、パリ条約4条D(3)の規定を受けて、優先権証明書について「最初に出願をし……たパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面、……及び図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する……証明書であってその同盟国の政府が発行したもの」の提出を要求しており、「写し」等の提出で足りるものとはしていないから、パリ条約による優先権主張の手続において提出することが要求される優先権証明書は、同盟国の政府が発行した優先権証明書の原本そのものであり、その写しは含まれないものと解される。」と判示した。

 

②について

 また、東京地裁は、優先権証明書提出期間の経過後に、原本の提出による補正を認めれば、優先権証明書提出期間を定め、その期間内に優先権証明書の提出がないときは当該優先権の主張がその効力を失う旨規定する特許法43条2項、4項の規定の趣旨を没却することになると指摘。

 

 原告は、本件提出書に係る手続については、客観的に判断した手続者の合理的意思(優先権証明書の原本を提出すべきところ、誤って「複写」を提出してしまったこと)が明らかであり、不適法な手続であってその補正をすることができないもの(特許法18条の2第1項)には該当しないと主張したが、東京地裁は、原告が提出したのは、OHIMが発行した本件共同体意匠の出願日が記載された認証謄本の一部(表紙を含む2枚分)のみを複写したものとその訳文にすぎず、本件共同体意匠を記載した図面等に相当するものの写し等は添付されていなかったことを挙げ、直ちに「原本を提出すべきところを誤って複写を提出してしまったことが明らか」であると認めることはできないとした。

 また、補正を認めれば、第三者に重大な不利益を生じさせると共に、審査の遅延をももたらすと指摘。優先権証明書提出期間の経過後に、原本の提出による補正は認められないとした。

 

 尚、原告は、特許庁による本件却下処分後に、優先権証明書の原本を添付して手続の補正をしたが、この手続補正書に係る手続は却下処分とされた。原告は、この却下処分についても、違法であるとして別訴を提起したが(平成21年(行ウ)第597号)、東京地裁は訴えの利益がないとして却下している。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101108105846.pdf