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判例・実務情報

(東京地裁、特許) クレーム中の「椀」という語が通常の用法に従うものではない。食品の包み込み成形方法及びその装置事件



Date.2010年12月19日

平成21(ワ)1201号 食品の包み込み成形方法及びその装置事件 判決日:平成22年11月25日

 

・請求棄却 

・特許法100条1項、101条4号、差止請求、損害賠償請求、間接侵害 

・株式会社コバード 対 レオン自動機株式会社

 

 原告の特許発明は、パン生地、饅頭生地等の外皮材によって、餡、調理した肉・野菜等の内材を確実に包み込み成形することが可能な食品の包み込み成形方法及びこれに用いる食品の包み込み成形装置に関するものである。

 原告は、被告が被告装置の製造・販売する行為が自己の保有する特許を侵害するとして訴えを提起した。

 

 原告の食品の包み込み成形方法に関する特許発明は、下記の通りである。

 【請求項1】

 受け部材の上方に配設した複数のシャッタ片からなるシャッタを開口させた状態で受け部材上にシート状の外皮材を供給し、

 シャッタ片を閉じる方向に動作させてその開口面積を縮小して外皮材が所定位置に収まるように位置調整し、

 押し込み部材とともに押え部材を下降させて押え部材を外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持し、

 押し込み部材をさらに下降させることにより受け部材の開口部に進入させて外皮材の中央部分を開口部に押し込み外皮材を椀状に形成するとともに外皮材を支持部材で支持し、

 押し込み部材を通して内材を供給して外皮材に内材を配置し、外皮材を支持部材で支持した状態でシャッタを閉じ動作させることにより外皮材の周縁部を内材を包むように集めて封着し、

 支持部材を下降させて成形品を搬送することを特徴とする食品の包み込み成形方法。

 

 主な争点は、被告方法による間接侵害の成否等である。このうち被告方法1におけるノズル部材4が、その下端部を生地の中央部分に形成された窪みに当接させる状態で停止されるものではなく、さらに生地Fに深く進入してノズル部材4によって生地Fが椀状に形成されるものであるか否か、および本件発明の押し込み部材に相当するか否かが争われた。

 

 前者については、被告が提出した証拠により、「ノズル部材4が生地Fに深く進入することによって生地Fを椀状に形成するのではなく、ノズル部材4の下端部を生地Fの中央部分に形成された窪みに当接させる状態で、又は、せいぜい、ノズル部材4の下端部を生地Fに接触させ、生地Fをノズル部材4の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度の状態で、これを停止させ、その後に、ノズル部材4から内材を供給することにより、内材の吐出圧によって生地Fを椀状に膨らませる(椀状に形成する)構成となっていることが認められる。」と認定し、ノズル部材4が生地Fに深く浸入していると認めることはできないと判断した。

 

 また、後者については、「「椀 」とは、「汁・飯などを盛る木製の食器・多くは漆塗で蓋がある。」という意味を有するものである(乙30)から、・・・ノズル部材4の下端部が生地Fに接触することによって生地Fをノズル部材4の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度のことをもって、「椀状に形成する」に当たると解することは、「椀」という語の通常の用法に沿うものとは認められない。」と判示した。

 

 更に、明細書の記載内容を参酌して、「本件発明1における「押し込み部材」とは、単に、同部材の下端部を外皮材の中央部分に形成された窪みに当接させる状態で停止し、又は、せいぜい、同部材の下端部を外皮材に接触させ、外皮材を同部材の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度の状態で停止するものではなく、「外皮材が必要以上に下方へ伸びてしまうこと」及び「押し込み部材の上昇に伴い外皮材が収縮するのを防ぐ」必要がある程度に、深く外皮材に進入し、外皮材の縁部周辺を伸ばしながら外皮材を椀状に形成することを想定しているといえ、同部材によって、外皮材を成形品の高さと同程度の深さに「椀」形の形状に形成し、同部材によって形成された椀状の部分の中に内材が吐出されるものを意味すると解するのが相当である。」と判示した。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101201104225.pdf