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【東京地裁、特許】 機能的表現のクレーム解釈 平成21(ワ)34337



Date.2011年2月10日

東京地裁平成22年12月24日判決 平成21(ワ)34337 魚掴み器事件

 

・請求認容

・スタジオオーシャンマークことA 対 有限会社ライラクス

・特許法100条1項、2項、技術的範囲、機能的表現、作用的表現、差止め

 

(経緯)

 原告は、魚の顎を挟持して魚を掴むための魚掴み器についての特許権(特許第4,158,990号)を有しており、被告が被告製品を製造・販売する行為が原告の特許権を侵害するとして、その差止め等を求めて東京地裁に訴えを提起した。

 

(本件特許)

 各構成要件に分説された本件特許は、下記の通りである。

 

A 先端基端方向に長い本体と,

B 該本体先端部に設けられる固定歯と,

C 本体先端部に基端部が揺動自在に支持され,先端が固定歯先端に突当てられて魚の口を掴むことができる可動歯と,

D 本体に対して移動自在に設けられる操作体と,

E 該操作体に設けられる指掛け部の強制移動操作により移動した該操作体を元姿勢に復帰させる復帰弾機とを備え,

F 可動歯は,操作体が前記元姿勢に位置するときには該可動歯先端が固定歯先端から離間する方向の回動が規制され,操作体の復帰弾機に抗する強制移動に伴い回動規制が解除されて可動歯先端が固定歯先端から離間して拡開するよう揺動する構成になっていることを特徴とする

G 魚掴み器。

 

(争点)

 争点は、下記の通りである。

 

(1) 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)

 ア 被告製品における可動歯は,その基端部が本体の先端部に「揺動自在に支持され」(構成要件C)ているか(争点1-1)

 イ 被告製品における可動歯は,操作体が元姿勢に位置するときに,可動歯の先端が固定歯の先端から離間する方向の「回動が規制され」(構成要件F),操作体を復帰弾機に抗して強制移動することに伴い,上記「回動規制が解除され」(同構成要件)るものか(争点1-2)

 

(2) 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)

 ア 本件補正は特許法17条の2第3項に違反するか(争点2-1)

 イ 本件発明は進歩性を欠くか(争点2-2)

 

(3) 原告の損害(争点3)

 

(裁判所の判断)

 上記の各争点のうち、争点1-2に於いては、機能的・作用的表現で記載された構成要件Fの「回動が規制され」および「回動規制が解除され」の解釈が問題となった。

 

 この争点に関し、被告は,発明の詳細な説明に開示された技術的事項に合理的に限定して解釈すべきであり、本件に於いては、本件明細書に開示されている構成,すなわち,操作体の下端縁に設けた円弧溝状のロック面に可動歯の上縁部が入り込むことによって,可動歯が固定歯から離間する方向の回動を規制している構成と解すべきである,と主張した。

 

 東京地裁は、先ず、「規制」および「回動」の一般的な意味について、広辞苑等を参酌したが、本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,回動規制を達成するために必要な具体的な構成は明らかにされていないと指摘。

 「このように特許請求の範囲に記載された発明の構成が機能的,作用的な表現を用いて記載されている場合において,当該記載から直ちに当該機能ないし作用効果を果たし得る構成であればすべてその技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までもが発明の技術的範囲に含まれることとなりかねず,相当でない。したがって,特許請求の範囲に上記のような機能的,作用的な表現が用いられている場合には,特許請求の範囲の記載だけではなく,明細書の発明の詳細な説明の記載をも参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である。」と判示した。

 

 その上で、本件に於いては、本件明細書および図面を参酌して、「構成要件Fの「回動規制」の技術的意義は,復帰弾機の付勢力によらずに,ピンや長孔を用いて操作体の移動を阻止する構成を採用し,操作体が元姿勢に位置していること自体によって,可動歯が動かないようにすることにあると認められる。」とした。

 

 一方、被告製品については,「本件明細書の発明の詳細な説明に具体的に開示されたところの,操作体に左方向(固定歯向きの左方向)の力が掛かった際に,ピンや長孔を用いて操作体の移動を阻止することによって可動歯を動かないようにするという構成と,技術思想を同じくするものであると解され,当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて採用し得る範囲内の構成であるといえる。」として、構成要件Fを充足すると判断した。

 

 その他、被告は、補正要件違反や進歩性欠如を根拠とする無効の抗弁も主張したが(争点2)、何れも認められず、本件に於いては、原告の請求が認められた。

 

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110106150432.pdf