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【知財高裁、不正競争】 不競法2条1項14号による損害賠償責任の有無の判断においては、特許権者の権利行使を不必要に萎縮させるおそれの有無や,営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮した上で,違法性や故意過失の有無を判断すべきとされた事例。(平成22(ネ)10074 雄ねじ部品事件)



Date.2011年4月19日

知財高裁平成23年02月24日判決 平成22(ネ)10074 雄ねじ部品事件

 

・控訴人兼被控訴人(第1審本訴原告・反訴被告)ベクトリックス株式会社(1審原告) 対 被控訴人兼控訴人(第1審本訴被告・反訴原告)株式会社フカサワ(1審被告)

・1審被告の控訴 一部認容・一部棄却、1審原告の控訴棄却

・特許法29条2項、不正競争防止法2条1項14号、進歩性、容易想到性、営業上の信用、信用毀損(営業誹謗)、警告、過失

 

(経緯)

 1審被告は、「雄ねじ部品」の特許発明(特許第3999997号)の特許権者である。

 1審原告は、1審被告に対し、原告製品の販売が本件特許権の侵害に当たらず、本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認と、1審被告が1審原告の取引先に対して1審原告の販売する原告製品が本件特許権を侵害する旨告知したこと(本件告知行為)が不競法2条1項14号所定の不正競争に該当すると主張して、損害賠償を求める訴えを東京地裁に提起した。

 これに対して、1審被告は、1審原告に対し、原告製品の販売が本件特許権の侵害に当たると主張して、特許法65条1項後段に基づく補償金および特許権侵害の不法行為(民法709条、特許法102条2項)に基づく損害賠償金を求めて、東京地裁に反訴した。

 

 1審の東京地裁は、本件特許が、進歩性の欠如により無効にされるべきものと認められるから、本件特許権に基づき権利行使をすることはできないとして、差止請求権不存在確認請求を認容した。その一方、1審被告の本件告知行為は、不競法2条1項14号に該当するとして、損害賠償請求の一部を認容した。

 本件は、この判決に不服の1審原告および1審被告が、知財高裁にそれぞれ控訴した事件である。

 

(争点)

 本件の主な争点は、以下の通りである。

 ・特許法104条の3第1項の権利行使の制限

  進歩性欠如(特許法29条2項)

 ・不正競争(不競法2条1項14号)の成否及び損害額

 

(裁判所の判断)

 上記争点のうち、不競法2条1項14号の成否については、以下の通り判示されている。

 

 先ず、1審被告の本件告知行為は、以下の通りであった。

 ・1審被告は、ミヤガワ金属販売に対し、平成19年8月20日付けの書面により、同社が1審原告に販売しているパワーねじ(原告製品)が1審被告の本件特許権を侵害していることが明白であり、原告製品の製造、販売の中止、在庫品の廃棄及び損害賠償を請求する可能性がある旨を告知した。

 ・1審被告は、ミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対し、平成19年9月18日付けの警告書により、ミヤガワが製造し、ミヤガワ金属販売が販売しているパワーねじ(原告製品)が本件特許発明の技術的範囲に属するもので、本件特許権を侵害するものであり、その製造、販売を直ちに停止するよう警告した。

 

 本件特許は、原判決の通り、無効審判により無効にされるべきものであったことから、結論として、1審原告の行為は本件特許権の侵害行為に該当しなかった。そのため、上記の1審被告による告知行為は、結果的には虚偽となった。

 しかし、知財高裁は、このような1審被告による告知行為は、不競法2条1項14号に基づく損害賠償責任がないと判示した。

 

 「1審被告が有する本件特許権は、特許庁における審査を経て拒絶理由を発見しないとして特許査定に至ったものであり(特許法51条)、無効審決がされたわけでもなく、他方、原告製品が本件特許発明の技術的範囲に属することは、明らかであり、当事者間に争いがない。そして、ミヤガワ及びミヤガワ金属販売は、原告製品を製造販売する者であるから、本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるなどの抗弁事由が認められない場合であれば、本件特許権の直接侵害者に相当する立場にある者である。よって、本件特許権を有する1審被告は、原告製品の製造販売行為を行うミヤガワらに対して、特許権者として、ミヤガワらの行為が本件特許権を侵害することを告知したものと解される。

・・・

 以上のように、特許権者である1審被告が、特許発明を実施するミヤガワらに対し、本件特許権の侵害である旨の告知をしたことについては、特許権者の権利行使というべきものであるところ、本件訴訟において、本件特許の有効性が争われ、結果的に本件特許が無効にされるべきものとして権利行使が許されないとされるため、1審原告の営業上の信用を害する結果となる場合であっても、このような場合における1審被告の1審原告に対する不競法2条1項14号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては、特許権者の権利行使を不必要に萎縮させるおそれの有無や、営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮した上で、違法性や故意過失の有無を判断すべきものと解される。

 しかるところ、前記認定のとおり、本件特許の無効理由については、本件告知行為の時点において明らかなものではなく、新規性欠如といった明確なものではなかったことに照らすと、前記認定の無効理由について1審被告が十分な検討をしなかったという注意義務違反を認めることはできない。そして、結果的に、旭化成建材の取引のルートが1審原告から1審被告に変更されたとしても、本件告知行為は、その時点においてみれば、内容ないし態様においても社会通念上著しく不相当であるとはいえず、本件特許権に基づく権利行使の範囲を逸脱するものとまではいうこともできない。

 

 従来、特許権者が被疑侵害者の取引先等に警告等をする行為は、後に裁判所等で侵害不成立、無効等の判断がなされた場合、具体的な事情等を考慮することなく、不競法2条1項14号の信用毀損行為に該当するとした判断がなされていた。

 しかし、東京地裁平成13年9月20日(磁気信号記録用粉末事件)の事件以来、不競法2条1項14号の該当性判断においては、違法性阻却事由の有無が検討されるようになった。即ち、虚偽の事実の該当性についてはこれまで通り判断し、外形的に信用毀損行為に該当する場合でも、特許権者による警告等の告知行為が正当な権利行使の一環とみなされる場合は、その違法性が阻却されるとするものである。

 

 本件については、1審被告による告知行為が結果的に虚偽となったが、告知した相手が、原告製品の製造販売元であって直接侵害者の立場にある者であり、告知の内容や態様においても社会的に不相当とまではいえないと判断されている。即ち、本件においても、違法性阻却事由の存在が肯定された結果、2条1項14号に基づく損害賠償責任がないとされたものである。

 尚、違法性阻却事由を検討した裁判例としては、他に知財高裁平成16年8月31日(携帯電話事件)、知財高裁平成18年6月26日(広告フィルム事件)などがある。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110225144812.pdf