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判例・実務情報

【知財高裁、商標】 インターネット記事の証拠能力が争われた事例。(平成22(行ケ)10304 MBA ENGLISH事件)



Date.2011年3月22日

知財高裁平成23年03月28日判決 平成22(行ケ)10304 MBA ENGLISH事件

 

・請求棄却

・X 対 特許庁長官

・商標法3条1項3号、4条1項16号、自他役務識別標識機能、誤認混同

 

(経緯)

 原告は、商標「MBA ENGLISH」<標準文字>について、第41類を指定役務とする商標出願を行ったが、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判を請求した。

 審判は、①本願商標をその指定役務中の語学に関連した役務に使用した場合,本願商標は、これに接する取引者・需要者に対し,提供する役務の質(内容)を表したものと理解,認識させるにすぎず,自他役務識別標識としての機能を果たしていないとして、商標法3条1項3号に該当する,

②前記役務以外の役務に本願商標を使用するときは役務の質について誤認を生じさせるおそれがあるとして、4条1項16号に該当する,

として、拒絶審決をした。

 本件は、この審決に不服の原告が、その取消しを求めて、知財高裁に訴えを起こした事案である。

 

(争点)

 争点は、以下の通りである。

 ・商標法3条1項3号が規定する「その役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか

 ・商標法4条1項16号が規定する「役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するか

 

(裁判所の判断)

 ・本願商標の商標法3条1項3号及び同法4条1項16号該当性の有無

 審決は,本願商標の構成「MBA ENGLISH」から,取引者・需要者が看取ないし聴取する意味合いを「MBAのための,MBAに特化した英語」であると判断した。

 この審決の判断に対し、原告は、「MBA」を「語学」ないし「英語」に対し関連付ける事情は存在しておらず、商標構成が,看者ないし聴者に与える意味合いの判断に関しては,辞書類への掲載例数を重く参酌するのが妥当である等の主張をした。

 

 この主張に対し裁判所は、

「本願商標をその指定役務中語学に関連した役務に使用した場合,本願商標は,これに接する取引者・需要者をして,教授する語学,開催するセミナー,提供する出版物等の内容というように,提供する役務の質(内容)を表したものと認識させるに止まり,取引者・需要者が本願商標を何人かの業務に係る役務であると認識することはできないものと認めるのが相当である。そうすると,結局,本願商標は自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものというべきであって,商標法3条1項3号の「その役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当し,また,本願商標を前記役務以外の役務に使用するときは,役務の質について誤認を生じさせるおそれがあるから,同法第4条1項16号の「役務の質の誤認を生じるおそれがある商標」に該当するといわざるを得ない。」

と判示した。

 

 さらに、

「確かに本願商標のような「MBA ENGLISH」なる語が辞書に掲載されている証拠はなく,また,一般的に出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するか否かを判断する場合において,辞書への掲載の有無及びその数が参酌される場合が多いことは事実である。

 しかし,辞書に掲載されているか否かはあくまで判断の一つの指標にすぎず,辞書に掲載されていることを重視するか否かは事案毎の個別の判断に委ねられているのであって,その語が辞書に掲載されていなければ同法3条1項3号の該当性が直ちに否定されるというものではない。

とした。

 

 ・インターネット記事の証拠能力等について

 また、本件審決では、「MBA ENGLISH」ないし「MBA英語」を含む表現が掲載されたインターネット記事が証拠として示されていた。この点について、原告は、書籍内容を著作者の主観に基づき創作的に表現したものであり,その意味合いが本願指定役務の取引者・需要者間で共通し特定したものとして認識されていることが,提示の4個のインターネット記事からは不詳であるなどとして、当該インターネット記事によっては,本願指定役務の取引者・需要者に共通して認識されているという市場実態の存在が立証されていないと主張した。

 

 この主張に対し、裁判所は、

「審決において,本件各インターネット記事は,「MBA ENGLISH」という語が「MBA(経営学修士)を取得するために,あるいは取得したMBAを活用するために有用な英語」という程度の意味合いをもって,MBA(経営学修士)の取得を希望する者等を対象としたセミナーや大学等の講座名として使用され,あるいはMBA留学等を考えている人に役に立つ書籍の表題として一般的にも広く使用されている語であることを示す例示として挙示されているものであり,・・・本件各インターネット記事はそのような例示として十分な証拠であると認められるから,この点に関する原告の主張は採用することはできない。」

と判示した。

 

 さらに、原告は、インターネット記事についての証拠能力の欠如についても主張したが、裁判所は、

 

 ①インターネット記事が存在することは事実である、

 ②URLや項目名等の記載内容が提示されており、容易にインターネット記事にアクセス可能である、

 ③審判における本件証拠調べ通知書に対して、意見書を提出して詳細な反論を行っており、当該インターネット記事によって原告の主張立証活動に支障が生じていない、

 

といった理由を挙げ、インターネット記事が証拠能力に欠けるものではないと判示した。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110404100020.pdf