E

判例・実務情報

【知財高裁、商標】 図形と文字からなる結合商標の類否が問題となった事例 平成18(行ケ)10280号 SMART事件



Date.2012年10月19日

知財高裁平成18年12月20日判決 平成18(行ケ)10280号 SMART事件

 

・請求棄却

・日立マクセル株式会社 対 特許庁長官

・商標法4条1項11号、結合商標、類否、図形、文字、分離観察

 

(経緯)

 原告の日立マクセル株式会社は,下記商標について商標登録出願(商願2004-017878号)をしたところ,拒絶査定を受けたので,不服の審判請求をした。

 しかし、特許庁は,請求不成立審決をしたので、これに不服の原告が知財高裁にその取消を求めて訴えを提起した。

 

(本願商標及び引用商標)

 本願商標は、以下の通りである。

 

 本件における代表的な引用商標は、以下の通りである。

 

(審決)

 審決は、本願商標が,引用商標と称呼を共通にする類似の商標であり,かつ本願商標の指定商品は引用商標の指定商品と同一又は類似するものを含むから,商標法4条1項11号に該当する,というものである。

 

(裁判所の判断)

 

1.本願商標における図形部分と文字部分との分離観察

 

 本願商標において図形部分と文字部分を分離観察して、引用商標と対比すべきか否かについて、裁判所は以下の通り判示した。

「これらの図形部分と文字部分は左右に明確に分かれている上,文字部分の高さは,図形部分の高さとほぼ同じであり,横幅は,図形部分の3倍弱程度の幅があるから,文字部分が図形部分に比べて目立たないということはない。これらの事実に,今日においても文字の持つ情報伝達力が重要であることを併せ考えると,文字部分は,図形部分とは独立して認識され得るものと認められる。したがって,審決の本願商標の「図形部分と文字部分のそれぞれが独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るものといえる。」(6頁18行~20行)との判断に誤りはない。」

 

2.本願商標の文字部分

 

 裁判所は、本願商標の「Neo」は、新製品又は最新の製品を意味する語として認識されることが考えられるとして、必ずしも「SMART」と一体として認識されるということはできない、と判示した。

 その結果、本願商標に於いては、本願商標の文字部分のうち,「SMART」の文字部分が,特に取引者,需要者の注意を引くことが少なくないものと認められるとして、審決の「本願商標をその指定商品について使用した場合,これに接する取引者,需要者は,大きく書された『SMART』の文字部分に着目し,これより生ずる称呼をもって取引に資することも少なくないというのが相当である。」との判断には誤りがないと判断した。

 

3.本願商標と引用商標の類否判断

 

 ・称呼

 本願商標の図形部分と文字部分は,それぞれが独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るが、取引者,需要者は,文字部分のうち「SMART」の文字部分に着目し,これより生ずる称呼である「スマート」をもって取引に資することが少なくないものということができるとして、本願商標と引用商標は、称呼に於いて共通するとした。

 

 ・外観

 引用商標では,本願商標の図形部分に相当する部分や「Neo」の文字がないので,外観は相違するということができるが、取引者,需要者の注意をひく「SMART」の部分の外観は共通しているとした。

 

 ・観念

 本願商標は,図形部分を含む全体としては,特定の観念を生ずるものとはいえないが,取引者,需要者の注意をひく「SMART」の部分からは,「賢い,気の利いた,(身なりが)きちんとした,洗練された」などの観念が生ずるとして、引用商標とは、観念において共通するとした。

 

 

 以上より、裁判所は、本願商標と引用商標が,称呼において共通している上,外観及び観念においても,取引者,需要者の注意をひく「SMART」の部分は共通しているから,商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すると,本願商標と引用商標は類似していると判示し、原告の請求を棄却した。

 

 

 本件は、図形と文字の結合商標における類否判断において、分離観察の適否が問題となった事例である。

 結合商標の分離観察については、最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁が、以下の様に判示している。

「商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから,みだりに,商標構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことは許されないが,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念の生ずることがあり,この場合,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

 

 商標の類否判断においては、先ず、対比する商標について全体観察がなされるが、一体不可分的でない部分や付加的な部分がある場合はこれを除いて、商標の要部を分離観察することができる。

 図形と文字の結合商標については、図形部分と文字部分が一体不可分的か否か、相互に独立して自他商品識別標識としての機能を有するか否か、その場合に図形部分と文字部分の何れがより強く自他商品識別標識としての機能を発揮するかなどに注意を要する。

 

 図形と文字の結合商標における類否判断が争点となった事件としては、他にも種々存在する。

 例えば、SPA事件(東京高裁平成8年4月17日判決・知的裁集28巻2号406頁)では、図形と「SPA」との組み合わせからなる本件商標は、「SPAR」「スパー」を上下二段に併記した引用商標と類似しないと判断された。

 

 

 また、KELME事件(東京高裁平成10年6月30日判決・判例時報1666号131頁)では、「KELME」の欧文字と、動物の足跡を想起させる図形とからなる本件商標は、動物の足跡を想起させる図形のみからなる引用商標と類似しないと判断された。

 

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061227111835.pdf