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判例・実務情報

【知財高裁、商標】 「総合小売等役務商標」と「特定小売等役務商標」の独占権の範囲の重複、BLUE NOTE事件



Date.2011年11月8日

平成23年09月14日判決 平成23(行ケ)10086(BLUE NOTE事件)

・請求棄却

・ キャピトル レコーズ リミテッド ライアビリティー カンパニ 対 伊藤忠商事株式会社

・商標法4条1項15号,19号、25条、37条、小売役務商標、出所の混同、不正の目的

(経緯)

 被告は,下記登録商標(登録第5190076号)の商標権者である。原告は、「BLUE NOTE」又は「ブルーノート」という商標(引用商標)を引用して,本件商標の登録は,商標法4条1項15号,19号に該当するなどと主張し,無効審判を請求した。

 これに対し、特許庁は、請求不成立審決をした。この審決の原告は、その取消しを求めて、知財高裁に訴えを提起した。

 

(審決)

1.4条1項15号該当性

・引用商標の周知性は,「レコード(CDも含む。)」に限られ、本件商標の登録出願時及び登録査定時において,その商品の範囲を超えて,我が国内の需要者の間に広く認識されていたものとまでは認められない。

・本件商標の指定役務は,「レコード(CDも含む。)」に関する役務を含むものではなく,本件商標をその指定役務に使用しても,出所について混同を生ずるおそれはない。

2.4条1項19号該当性

・原告の主張及び提出に係る全証拠によっては,本件商標が引用商標に依拠し,不正な目的で使用するものとはいえない。

(争点)

1.4条1項15号該当性についての判断の誤り

2.4条1項19号該当性についての判断の誤り

(裁判所の判断)

1.4条1項15号該当性についての判断の誤り

 知財高裁は、先ず、本件商標に係る指定役務が、「総合小売等役務」と、「特定小売等役務」からなるとした。

 (「総合小売等役務」は「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」であり、「特定小売等役務」は「『菓子及びパンの小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』など取扱商品の種類を特定した上で,それらに属する商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」である。)

 次いで、本件商標の効力(すなわち、本件商標中の「小売等役務商標の査定ないし商標登録」の効力の及ぶ範囲)については、以下の通り判示している。

「「小売等役務商標の査定ないし商標登録」行為は,独占権を付与する行政行為等であるから,独占権の範囲に属するものとして指定される「役務」は,例えば,「金融」,「教育」,「スポーツ」,「文化活動」に属する個別的・具体的な役務のように,少なくとも,役務を示す用語それ自体から,役務の内容,態様等が特定されることが必要不可欠であるといえる。ところで,「小売役務商標」は,上記の,独占権の範囲を明確にさせるとの要請からは大きく離れ,「小売の業務過程で行われる」という経時的な限定等は存在するものの,「便益の提供」と規定するのみであって,提供する便益の内容,行為態様,目的等からの明確な限定はされていない。「便益の提供」とは「役務」とおおむね同義であるので,仮に何らの合理的な解釈をしない場合には,「便益の提供」で示される「役務」の内容,行為態様等は,際限なく拡大して理解,認識される余地があり,そのため,商標登録によって付与された独占権の範囲が,際限なく拡大した範囲に及ぶものと解される疑念が生じ,商標権者と第三者との衡平を図り,円滑な取引を促進する観点からも,望ましくない事態を生じかねない。

 上記のように指摘した上で、本件商標権者が本件特定小売等役務および総合小売等役務について有する専有権の範囲については、以下の通り、判断している。

「 まず,「特定小売等役務」においては,取扱商品の種類が特定されていることから,特定された商品の小売等の業務において行われる便益提供たる役務は,その特定された取扱商品の小売等という業務目的(販売促進目的,効率化目的など)によって,特定(明確化)がされているといえる。そうすると,本件においても,本件商標権者が本件特定小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,特定された取扱商品に係る小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当である(侵害行為については類似の役務態様を含む。)。

 次に,「総合小売等役務」においては,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」などとされており,取扱商品の種類からは,何ら特定がされていないが,他方,「各種商品を一括して取り扱う小売」との特定がされていることから,一括的に扱われなければならないという「小売等の類型,態様」からの制約が付されている。したがって,商標権者が総合小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当であり(侵害行為については類似の役務態様を含む。),本件においても,本件商標権者が本件総合小売等役務について有する専有権ないし独占権の範囲は上記のように解すべきである。」

 そして、本件商標の4条1項15号の該当性については、引用商標が、その登録出願前から,音楽関連の取引者,音楽愛好家などの需要者において,原告ないし原告の子会社であるブルーノート社の製作,販売等に係る「レコード(CDも含む。)」であると広く認識,理解されていたと認めたが,同標章の出所表示機能は、商品「レコード(CDも含む。)」の販売等,又は,せいぜい同商品の販売等をする過程で行われる便益の提供に関連するものに限られるとした。

 その結果、被告が同商標を使用したとしても,需要者,取引者において,その役務の出所が原告であると混同するおそれはないと判断した。

 また,本件特定小売等役務には,「『レコード(CDも含む。)』の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が含まれないことから,本件商標を本件特定小売等役務に使用することによって,出所の混同が生ずることはないと判断した。

2.4条1項19号該当性についての判断の誤り

 原告は,本件商標が登録されたことにより,本件商標の指定役務である特定小売等役務とその特定小売等役務により取り扱われる商品とが類似するものとして扱われるため,引用商標を付した関連商品を販売することができない結果を来すから,被告に「不正の目的」が存在するとの主張をした。

 しかし,裁判所は、被告において,本件特定小売等役務ないし本件総合小売等役務を指定役務とする本件商標を有したとしても,その独占権は,限定された範囲にのみ及ぶのであるから、原告が引用商標を付した関連商品を販売することを禁止する効力はない、と判断した。

 また、本件総合小売等役務については,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供と認められない限り,本件商標の独占権は,当然には及ばないとも指摘した。

 以上より、本件商標は、4条1項19号にも該当しないと判断した。

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110915085437.pdf