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判例・実務情報

【知財高裁、商標】 知財高裁が、Yチェアの立体商標は自他商品識別力を有するとして、立体商標の登録を認める判決



Date.2011年8月16日

平成23年6月29日判決 平成22(行ケ)10253号、平成22年(行ケ)10321号 Yチェア事件

・請求認容

・カール・ハンセン&サンジャパン株式会社、カール・ハンセン アンド サン モーベルファブリック エイ・エス 対 特許庁長官

・商標法3条1項3号、3条2項、立体商標、自他商品識別力

(経緯)

 原告は、下記の本願商標について、指定商品を第20類「家具」として、立体商標の商標登録出願(商願2008―11532号)をした。しかし、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服の審判(不服2009-12366号事件)を請求した。原告は、指定商品について「肘掛椅子」とする補正をしたが、特許庁は、拒絶審決をした。本件は、この拒絶審決に不服の原告が、知財高裁に訴えを提起した事件である。

 尚、原告は、承継参加人に対し、本願商標に関する権利の一部を譲渡している。

 

 

(審決)

 審決は、本願商標は、立体的に表された「肘掛椅子」を容易に認識させるものであり、本願商標をその指定商品に使用しても、取引者・需要者は、単に商品の一形態を表示するものと理解し、自他商品の識別標識として認識し得ないから、商標法3条1項3号に該当し、 また、本願商標は、全国的に、その指定商品である「肘掛椅子」に使用された結果、需要 者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っているとは認められないから、同条2項の適用により登録を受けられるべきものにも該当しない、というものであった。

(争点)

1.商標法3条1項3号該当性の判断に誤りはあるか

2.商標法3条2項該当性の判断に誤りはあるか

(裁判所の判断)

1.商標法3条1項3号該当性の判断の誤り

 知財高裁は、立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当する場合について、以下の3つを挙げている。

 ①商品等の形状は、多くの場合に、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当する。

 ②同種の商品等について、機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として、商標法3条1項3号に該当する。

 ③商品等に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば、商標法3条1項3号に該当する。

 

「 (ア) 商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品、役務の出所を表示し、自他商品、役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品等の製造者、供給者の観点からすれば、商品等の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品等の形状を見る需要者の観点からしても、商品等の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。

 そうすると、商品等の形状は、多くの場合に、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。

 (イ) また、商品等の具体的形状は、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるといえる。しかし、同種の商品等について、機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として、商標法3条1項3号に該当するものというべきである。その理由は、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から必ずしも適切でないことにある。

 (ウ) さらに、商品等に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば、商標法3条1項3号に該当するというべきである。その理由として、商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に、商品等の機能の観点からは発明ないし考案として、商品等の美観の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反することが挙げられる。」

 本願商標の3条1項3号該当性については、看者に対し、シンプルで素朴な印象、及び斬新で洗練されたとの印象を与えているが、その形状における特徴は、いずれも、すわり心地等の肘掛椅子としての機能を高め、美感を惹起させることを目的としたものであり、商品の出所を識別する標識と認識させるものとまではいえない、として3条1項3号に該当すると判断した。

 

2.商標法3条2項該当性の判断の誤り

 先ず、知財高裁は、3条2項該当性の判断において、「立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標ないし商品等の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品等の存否などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当である。」とした。

 さらに、「使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要する」とも述べた。

 但し、使用に係る商品等の立体的形状において、ごく僅かに形状変更がされたことや、材質ないし色彩に変化があったことによって、直ちに、使用に係る商標ないし商品等が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく、使用に係る商標ないし商品等にごく僅かな形状の相違、材質ないし色彩の変化が存在してもなお、立体的形状が需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で、判断すべきであるとも述べている。

 本願商標については、原告製品が特徴的な形状を有しており、ほぼ同一の形状を維持して、長期間にわたり広告宣伝等が行われ、多数の商品が販売されていたことから、需要者において、本願商標ないし原告製品の形状の特徴の故に、何人の業務に係る商品であるかを、認識、理解することができる状態になっていると判断した。

 これに対し、被告は、原告が販売する原告製品は、本願商標と形状がほぼ同一であっても、様々な色彩のものが販売されており、これにより商品に対する印象、認識が大きく異なるから、本願商標と原告使用に係る商標とが、同一のものであるということはできないと主張した。

 しかし、知財高裁は、本願商標は、形状の特徴によって自他商品の出所識別力があるとして、色彩にバリエーションがあったとしても、商品の出所に対する需要者の認識が大きく異なるとはいえず、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認定することの障害になると解することはできない、とした。

 また、被告は、原告製品に類似した形状の椅子が、インターネットを通じて販売されていることから、原告製品に接する取引者、需要者が、いずれの肘掛椅子が原告の製造、販売に係る椅子であるかを区別できず、本願商標が自他商標品の識別力を獲得していないと主張した。

 しかし、知財高裁は、類似品が原告製品の「ジェネリック製品」や「リプロダクト製品」などとして販売されていること、原告が不正競争防止法に基づき警告書等を送付するなどの措置を講じていることを挙げ、類似品が販売されていたとしても、本願商標が自他商標品の識別力を獲得しているとの認定を妨げるものではないと判示した。

 以上から、裁判所は、特許庁の拒絶審決を取消し、原告の請求を認容した。

 

(判決文) http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110629164722.pdf