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判例・実務情報

【知財高裁、特許】 審決の理由不備により拒絶審決が取り消された事例。



Date.2011年3月3日

知財高裁平成22年12月28日判決 平成22(行ケ)10229 プラスチック成形品の成形方法及び成形品事件

 

・請求認容

・ABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社 対 特許庁長官

・特許法157条2項4号、理由不備

 

(経緯)

 審決は、本件発明と刊行物1記載の発明とを対比し、一致点・相違点を認定した。しかし、相違点1および2の容易想到性の判断においては、周知技術に刊行物1記載の発明を適用して、容易想到であるとの判断をしていた。

 本件は、このような容易想到性の判断に理由不備があるか否かが争われた事例である。

 

(裁判所の判断)

 先ず、知財高裁は、本件発明の相違点1、2の容易想到性の判断においては、「刊行物1記載の発明に,上記周知技術を適用して(併せて周知の課題を参酌して),本願発明の前記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くことが必要である。」と述べる一方で、本件の審決においては、「相違点1及び2についての検討において,逆に,刊行物1記載の発明を,甲2及び甲3記載の周知技術に適用し,本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であるとの論理づけを示している」と指摘。

 

 その結果、「審決は,刊行物1記載の発明の内容を確定し,本願発明と刊行物1記載の発明の相違点を認定したところまでは説明をしているものの,同相違点に係る本願発明の構成が,当業者において容易に想到し得るか否かについては,何らの説明もしていないことになり,審決書において理由を記載すべきことを定めた特許法157条2項4号に反することになり,したがって,この点において,理由不備の違法がある。」と判示した。

 

 一方、被告は、審決における進歩性の判断は、刊行物1記載の発明と、周知技術に基づいて容易想到と判断したものであり、刊行物1記載の発明を上記金型に適用しても,上記金型を刊行物1記載の発明に適用しても,組み合わせた結果としての発明に相違はないから,理由不備の違法はないと主張した。

 

 この主張に対し、裁判所は、「仮に,審判体が,本願発明について,当業者であれば,金型に係る特定の発明を基礎として,同発明から容易に想到することができるとの結論を導くのであれば,金型に係る特定の発明の内容を個別的具体的に認定した上で,本願発明の構成と対比して,相違点を認定し,金型に係る特定の発明に,公知の発明等を適用して,上記相違点に係る本願発明の構成に想到することが容易であったといえる論理を示すことが求められる。金型に係る特定の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合は,刊行物1記載の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合と,相違点の認定等が異なることになり,本願発明の相違点に係る構成を容易に想到できたか否かの検討内容も,当然に異なる。」として、被告の主張を採用しなかった。

 結論として、本件の審決には、理由不備の違法があると判断した。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101228154841.pdf