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(知財高裁、特許) 日焼け止め剤組成物事件 発明の効果参酌の際には、当業者が発明の効果を認識、又は推論できる記載が明細書中にある場合、出願後に補充した実験結果等を参酌することが許される。



Date.2010年12月15日

平成21年(行ケ)第10238 日焼け止め剤組成物事件 平成22年07月15日判決

 

・特許法29条2項、進歩性、発明の効果

・ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー 対 特許庁長官

 

 発明の効果を参酌する際に、当業者が発明の効果を認識、又は推論できる記載が明細書中にある場合は、出願後に補充した実験結果等を参酌することは許される。

 原告(ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー)は、「日焼け止め剤組成物」の発明に関する出願をしたが、進歩性欠如を理由に拒絶審決を受けたので、その取消しを求めて訴えを提起した。

 

 裁判所は、発明の効果の参酌に関し、当初明細書に何ら記載がない場合を除き、当業者が発明の効果を認識できる程度の記載がある場合や、推論できる場合は、出願後に提出した実験結果等を考慮することが許されると判示した。

 

「 特許法29条2項の要件充足性を判断するに当たり、当初明細書に、「発明の効果」について、何らの記載がないにもかかわらず、出願人において、出願後に実験結果等を提出して、主張又は立証することは、先願主義を採用し、発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反することになるので、特段の事情のない限りは、許されないというべきである。

 また、出願に係る発明の効果は、現行特許法上、明細書の記載要件とはされていないものの、出願に係る発明が従来技術と比較して、進歩性を有するか否かを判断する上で、重要な考慮要素とされるのが通例である。出願に係る発明が進歩性を有するか否かは、解決課題及び解決手段が提示されているかという観点から、出願に係る発明が、公知技術を基礎として、容易に到達することができない技術内容を含んだ発明であるか否かによって判断されるところ、上記の解決課題及び解決手段が提示されているか否かは、「発明の効果」がどのようなものであるかと不即不離の関係があるといえる。そのような点を考慮すると、本願当初明細書において明らかにしていなかった「発明の効果」について、進歩性の判断において、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは、出願人と第三者との公平を害する結果を招来するので、特段の事情のない限り許されないというべきである。

 他方、進歩性の判断において、「発明の効果」を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されないのは、上記の特許制度の趣旨、出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから、当初明細書に、「発明の効果」に関し、何らの記載がない場合はさておき、当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には、記載の範囲を超えない限り、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり、許されるか否かは、前記公平の観点に立って判断すべきである。」

 

 また、当初明細書に、発明の効果が定性的に記載されている場合、数値が明示的に記載されていない場合に於いても、後に提出した実験結果を参酌することは可能としている。

 

「 被告の主張を前提とすると、本願当初明細書に、効果が定性的に記載されている場合や、数値が明示的に記載されていない場合、発明の効果が記載されていると推測できないこととなり、後に提出した実験結果を参酌することができないこととなる。このような結果は、出願人が出願当時には将来にどのような引用発明と比較検討されるのかを知り得ないこと、審判体等がどのような理由を述べるか知り得ないこと等に照らすならば、出願人に過度な負担を強いることになり、実験結果に基づく客観的な検証の機会を失わせ、前記公平の理念にもとることとなり、採用の限りでない。」