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判例・実務情報

(知財高裁、特許) 明確性要件に於いては、特許請求の範囲の記載に、発明に係る機能、特性、解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていることを求めるのは許されない。



Date.2010年12月15日

平成21年(行ケ)第10434 吸収性物品事件 平成22年8月31日判決

  • 明確性(特許法36条6項2号)
  • ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー 対 特許庁長官

 原告(ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー)は、「吸収性物品」の発明に関する出願をしたが、明確性要件違反を理由に拒絶審決を受けたので、その取消しを求めて訴えを提起した。

 明確性の有無が問題となった発明は、以下の通りである。

 

【請求項1】

 バックシートとトップシートとを有する吸収性物品であって、

 第1腰部区域、第2腰部区域、それらの間に挟まれた股部区域、長手方向軸線、及び前記トップシートと前記バックシートとの間に配置され、

 中に排泄物を受けるための主要空間まで通路を提供する開口部を具備し、前記開口部が前記長手方向軸線に沿って少なくとも前記股部区域に配置され、

 前記トップシートが伸縮性であり、当該物品が、当該物品の弛緩した状態での長手方向寸法の60%の長さである短縮物品長Lと、伸張時短縮物品長Lsとを有する短縮物品部分を有し、当該物品が次の弾性特性:0.25Lsで0.6N未満の第1負荷力、0.55Lsで3.5N未満の第1負荷力、及び0.8Lsで7.0N未満の第1負荷力、並びに0.55Lsで0.4N超の第2負荷軽減力、及び0.80Lsで1.4N超の第2負荷軽減力、を有する吸収性物品。

 

【請求項2】

 0.5Ls未満の収縮時短縮物品長Lcを有する、請求項1に記載の吸収性物品。

 

 請求項1に記載の発明において、特許庁は、その発明の課題が、トップシートの糞便が通過できる開口が設けられた吸収性物品において、当該吸収性物品の適用中に開口の位置合わせを適切に行うことであるが、「伸長時短縮物品長Ls」と、「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」との関係により物品の弾性力を特定することが、吸収性物品の機能、特性、課題解決と、どのように関連するのか明確でない、とした。

 

 また、「0.25Lsで0.6N未満の第1負荷力、0.55Lsで3.5N未満の第1負荷力、及び0.8Lsで7.0N未満の第1負荷力、並びに0.55Lsで0.4N超の第2負荷軽減力、及び0.80Lsで1.4N超の第2負荷軽減力」との特定による作用効果も明確ではないとした。その結果、請求項1に記載の発明において、「伸長時短縮物品長Ls」を用いて、「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」との関係で物品の弾性特性を特定することの技術的意味は明確ではないとして、明確性要件違反とした。

 請求項2に記載の発明に対しては、当該発明が「収縮時短縮物品長Lc」と「伸長時短縮物品長Ls」(0.5Ls未満)との関係で、吸収性物品の構成を特定するものであるが、「収縮時短縮物品長Lc」と「伸長時短縮物品長Ls」との関係を特定することが、吸収性物品の機能、特性等とどのような関連性を有するのか明確でなく、また、「0.5Ls未満の収縮時短縮物品長Lc」との構成を採用することによる作用効果も明確ではないとした。その結果、請求項2に記載の発明に於いて、「収縮時短縮物品長Lc」と「伸長時短縮物品長Ls」との関係で吸収性物品の構成を特定することの技術的意味は明確ではなく、明確性要件違反であると判断した。

 

 裁判所は、特許法36条6項2号の明確性要件について、特許請求の範囲の記載に、発明に係る機能、特性、解決課題ないし作用効果との関係での技術的意味が示されていることを求めることは許されないと判示した。

 

「法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関して、「特許を受けようとする発明が明確であること。」を要件としているが、同号の趣旨は、それに尽きるのであって、その他、発明に係る機能、特性、解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない。

…(中略)…

法36条6項2号を解釈するに当たって、特許請求の範囲の記載に、発明に係る機能、特性、解決課題ないし作用効果との関係での技術的意味が示されていることを求めることは許されないというべきである。

 仮に、法36条6項2号を解釈するに当たり、特許請求の範囲の記載に、発明に係る機能、特性、解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていることを要件とするように解釈するとするならば、法36条4項への適合性の要件を法36条6項2号への適合性の要件として、重複的に要求することになり、同一の事項が複数の特許要件の不適合理由とされることになり、公平を欠いた不当な結果を招来することになる。」

 

 その上で、裁判所は、上記の観点から本件発明の明確性要件の有無について判断した。即ち、本件発明に於いては、明細書を参照することにより、その技術的範囲は明確であり、第三者に対して不測の不利益を与えることはないから、明確性要件違反ではないと判断した。

 

 「「伸張時短縮物品長Ls」又は「収縮時短縮物品長Lc」と関連させつつ、吸収性物品の弾性特性を「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」により特定する本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は、当業者において、本願補正明細書(図面を含む。)を参照して理解することにより、その技術的範囲は明確であり、第三者に対して不測の不利益を及ぼすほどに不明確な内容は含んでいない。

 上記のとおりであるから、「伸張時短縮物品長Ls」と「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」との関係(本願補正発明1)、「収縮時短縮物品長Lc」と「伸長時短縮物品長Ls」との関係(本願補正発明2)によって、弾性力を特定したことが、吸収性物品の機能、特性、発明の解決課題とどのように関連するのか、作用効果が不明であることを理由として、本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載が、法36条6項2号に反するとした審決には、同項同号の解釈、適用を誤った違法があるというべきである。」