E

判例・実務情報

【知財高裁、特許】 用語の意義を解釈するに当たっては、特段の事情が存在しなくても、発明の詳細な説明が参酌されるとした事例



Date.2011年9月6日

平成21年1月27日判決 平成20(行ケ)10166(直接錠剤化用調合物および補助剤の調合方法事件)

・請求認容

・惠民製藥股份有限公司 対 特許庁長官

・特許法29条2項、進歩性、発明の要旨の認定、用語の意義の解釈

(経緯)

 原告は、「直接錠剤化用調合物および補助剤の調合方法」の発明に関する特許出願人である。原告は、引用発明(特開平4-275236号公報)に基づき進歩性なしとの拒絶審決を受けたので、これを不服として知財高裁に訴えを提起した。

 

(本件発明)

【請求項1】

 A)一種または一種以上の希釈賦形剤約5~約99重量%及び/または薬学的活性成分0~約99重量%、

 B)結合剤約1~約99重量%、及び必要に応じて、

 C)崩壊剤0~約10重量%

の全部または一部を使用した混合物を含み、

 初期水分を約0.1~20%、及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1~20%含む条件下において、約30℃~約130℃の温度範囲まで加熱し、密閉系統中で転動回転、混合しつつ顆粒を形成することを特徴とする直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法。

 

(審決の内容)

<引用発明>

 薬学的に活性な成分及びそれを希釈・賦形するための生薬粉体30重量部、塩酸セトラキサート30重量部、及び、トウモロコシデンプン15重量部を含む混合物と、

 それらの水分を加熱前に特別除去することなく、転動機能付きの造粒装置で65℃以上の温度で加熱し、密閉系の転動機能付きの造粒装置中で攪拌・転動しつつ顆粒を形成する粒状物の製造方法。

<相違点>

 本願発明は、直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法であるのに対して、引用発明は、直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法であるか否か明確でない点。

 

(争点)

・本願発明の「熱粘着式造粒方法」の技術的意義に関する審決の認定に誤りはあるか。

 

(裁判所の判断)

(1) 裁判所は、「熱粘着式造粒方法」の意義を解釈するに当たって、「熱粘着式造粒方法」の用語が造立方法の一種を示すものとして一般的に知られた用語ではなく、また、「「熱」及び「粘着」が造粒に関して何らかの関係を有することは推測できるものの、それ以上の意味は不明である」として、発明の詳細な説明を参酌した。

 そして、発明の詳細な説明からは、本件発明が従来の湿式造粒法とは異なる新しい造粒方法として開発されたものであったことから、「熱粘着式造粒方法」(Thermal adhesion granulation)と命名されたものであると認定した。

 その結果、本件発明の「「熱粘着式造粒方法」とは、希釈賦形剤・薬学的活性成分・結合剤等の混合物を加熱することにより発生する蒸気が密閉系統中で凝結することを利用して、凝結した水分により結合剤に粘性を生じさせ、周囲の粒子を粘着させるという造粒方法をいうものと理解される。」と判断した。

 この点に関し、被告は、「本願発明に関して特許請求の範囲の記載に何ら不明確な点はなく、発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情も存在しないから、審決が本願発明の「熱粘着式造粒方法」は加熱して粒状物を製造する方法であるとした点に誤りはない」と主張した。

 しかし、裁判所は、「特段の事情が存在しない限り発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されないのは、あくまでも特許出願に係る発明の要旨の認定との関係においてであって、上記のように特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては、特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面を参酌すべきことは当然である」として、被告の主張を排斥した。

(2) さらに、裁判所は、引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するか否かを検討した。

 この点について、裁判所は、引用発明が「従来の湿式造粒法における欠点を克服し、多量の水分を含有させずに粒状物を製造するという点では本願発明と共通の目的を有するものの、その目的を達成するための手段として低融点物質を加熱して溶融させるという方法を採用している点で、本願発明とは異なる方法によるものである。」として、引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものとした審決の判断は誤りであると判断した。

 この点に関し、被告は、「引用例(甲1)の実施例にはトウモロコシデンプンを15重量部添加することが記載され、薬剤製造過程で使用されるトウモロコシデンプンの水分含有量が通常10%程度であることに照らせば、引用発明の諸材料中には本願発明における初期水分「約0.1~20%」の範囲内である1.5%程度の水分が含有されている」と主張した。

 しかし、裁判所は、「仮に、引用発明の諸材料中に1%を超える水分が含まれ、これを密閉系で加熱することによって容器内で水分が凝結することがあるとしても、引用例(甲1)には凝結した水分が結合剤に吸収されて粘性を生じさせるという記載はなく、低融点物質を溶融させて造粒を行うことが上記のとおり記載されているのである。そうすると、引用発明の諸材料中に通常含まれる水分が粒状物の製造に寄与するか、仮に寄与するとしてどのような役割を果たすのかについては、引用例には教示も示唆もされていないといわざるを得ない。」と判断した。

 その結果、原告の請求は認められ、審決は取り消された。

 

 本件において裁判所は、発明の要旨の認定と、用語の意義の解釈を明確に区別しており、本願発明の「熱粘着式造粒方法」の用語の意義を解釈するにあたっては発明の詳細な説明を当然に参酌すべきとした点に注目される。

 

 周知の通り、発明の要旨の認定にあたっては、最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決(リパーゼ最高裁判決)に従い、「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される」。

 これまでの裁判例では、発明の要旨の認定と、用語の意義の解釈の違いをあまり意識することなく、発明の詳細な説明を参酌すべきか否かが争われてきたように思われる。しかし本件のように、用語の意義の解釈においては当然に発明の詳細な説明が参酌されるというのであれば、今後、発明の要旨の認定の誤りを取消事由として主張するに際しては、主張内容が発明の要旨認定に関するものであるのか、用語の意義の解釈に関するものであるのか峻別して行う必要がある。

 尚、同じ様な判断をした裁判例としては、他に、「特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては、特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面をも参酌して、その技術的意義を明らかにした上で、技術的に意味のある解釈をすべきである。」と述べた平成21(行ケ)10139号(パルス研磨技術を用いた薄い材料の化学機械研磨事件)がある。