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【知財高裁、特許】 特許法153条2項の「当事者の申し立てない理由」には、特定の引用例に基づく容易想到性の判断における一致点や相違点の認定は当たらないとされた事例 平成23(行ケ)10313



Date.2012年7月11日

知財高裁平成24年7月4日判決 平成23(行ケ)10313 遊技機事件

 

・請求棄却

・X 対 株式会社ユニバーサルエンターテインメント

・特許法29条2項、153条2項、職権審理、当事者の申し立てない理由

 

(経緯)

 被告は、「遊技機」の特許発明(特許第4149759号)に関する特許権者である。原告は、本件特許に対し特許無効審判を請求し、特許庁は訂正を認めた上で、請求不成立の審決をした。

 この審決に不服の原告は、その取消しを求めて、知財高裁に訴えを提起した。

 

(争点)

 本件の争点は以下の通りである。

 ・訂正の適否に係る判断の誤り

 ・容易想到性の判断の誤り

 

(裁判所の判断)

 上記争点のうち、容易想到性の判断の誤りに於いては、特許法153条2項違反の有無が争われた。

  すなわち、原告は、無効審判の請求時において、本件発明と引用例1に記載された発明とを対比した上で、進歩性欠如の無効理由を主張した。しかし、審決は、引用例1を主引用例としながらも、原告が審判請求時に主張した一致点・相違点とは異なる認定をした上で、本件発明は容易想到でないとの審決をした。

 この点に関し、原告は本件訴訟で、「無効審判請求書において審判請求人であった原告が主張した一致点及び相違点と異なる一致点及び相違点を認定した本件審決には、特許法153条2項に違反する違法がある」と主張した。

 

 この主張に対し、裁判所は、

「特許法153条2項は、審判において当事者が申し立てない理由について審理したときは、審判長は、その審理の結果を当事者に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。これは、当事者の知らない間に不利な資料が集められて、何ら弁明の機会を与えられないうちに心証が形成されるという不利益から当事者を救済するための手続を定めたものである。

 したがって、特許法153条2項にいう「当事者の申し立てない理由」とは、新たな無効理由の根拠法条の追加や主要事実又は引用例の追加等、不利な結論を受ける当事者にとって不意打ちとなりあらかじめ通知を受けて意見を述べる機会を与えなければ著しく不公平となるような重大な理由をいうものであって、特定の引用例に基づいて当該発明が容易に想到できるか否かの判断の過程における一致点や相違点の認定は、上記「当事者の申し立てない理由」には当たらないと解される。よって、審決における特定の引用例との一致点や相違点の認定が、審判手続における当事者の主張するそれと異なっていたとしても、そのことをもって直ちに同項に違反するものとはいえない。また、特許無効審判の判断の過程において、当事者の一致点や相違点に係る主張に拘束されるものではない。」

と判示した。

 

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120709173822.pdf