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判例・実務情報

【米国、特許】 米国特許制度の概要



Date.2014年5月26日

1.手続

 

 (1)出願

 

(a)言語

・英語

・英語以外の言語(日本語)での出願が可能(規則1.52(d))。但し、英訳文を提出する必要があります。

 

(b)特許出願時の必要書類

・明細書、クレーム、要約、図面(必要な場合)

 但し、クレームが含まれない出願の場合でも、当該出願の受理日が出願日として認定され、その後、遅延費用を支払うことによりクレームの補充が可能となっています(規則1.53(b))。

 また、明細書や図面が含まれない出願であっても、アプリケーションデータシート(ADS:Application Data Sheet)に先の出願の表示がある場合には、当該出願の受理日が出願日として認定されます。この場合にも、出願人には、遅延費用の支払いを条件に明細書等の補充が認められています(規則1.57(a))。

・宣誓書(oath)又は宣言書(declaration

 発明者自身が最先の発明者である旨を宣言するための書面です。

 発明者が複数いる場合に、全ての発明者のサインが貰えないときには、出願人による代替供述書(Substitute Statement)の提出に代えることが可能です(規則1.64(a))。

 尚、宣誓書は公証人の前で宣誓することが必要です。

・委任状

・譲渡証

 例えば、出願人を会社とする場合に必要となります。

・情報開示陳述書(IDSInformation Disclosure Statement

 出願人が把握している先行技術文献をIDSとして提出します。

・アプリケーションデータシート(ADSApplication Data Sheet

 発明者の氏名、住所、国籍、発明の名称、優先権主張の基礎となる出願の情報等

・優先権証明書

 基礎出願が日本出願、又は日本国特許庁を受理官庁とするPCT出願である場合は、提出不要です。

 

(2)費用

 

(a)出願

・出願料金 USD 280

・独立クレーム数が3を超える場合 USD 420

・クレーム数が20を超える場合 USD 80

PCT出願(国内移行) USD280

 

(b)審査

・特許調査料 USD 600

・審査料 USD 720

・オフィスアクション延長費用

 1ヶ月 USD 200 2ヶ月 USD 600 3ヶ月 USD 1,400

RCE USD 1,200

・審判請求 USD 800

 

(c)年金

 1回目(3.5) USD1,600

 2回目(7.5) USD 3,600

 3回目(11.5) USD 7,400

 

(3)仮出願制度(Provisional Application

 

(a)仮出願とは、後に通常出願(本出願)をすることを前提として行う仮の出願をいいます(111条(b))。

 クレームや宣誓書等の書類提出を省略することができ、早期に出願日を確保したい場合に利用されます。

 

(b)この仮出願は、審査が行われず出願日から12ヶ月日に放棄となります(111条(5))。

 

(c)出願人は、仮出願の出願日から12ヶ月以内に優先権主張して本出願を行うか、通常出願への出願変更を行う必要があります。

 

(d)仮出願は、日本語で行うことができます(規則1.52(d))。その場合、本出願後、所定の期間内に英訳文を提出する必要があります。

 

 

2.出願公開制度

 

 (1)公開時期

・出願日(優先権主張を伴う出願の場合は、最先の優先日)から18ヶ月経過後に、出願公開されます(122条(b)(1)(A))。

・また、出願人から請求があった場合には、18ヶ月経過前でも出願公開されます。

・尚、公開予定日は、出願受領書に記載されます。

 

 (2)公開の対象とならない出願

・仮出願、意匠出願、秘密指令の対象となった出願、公開前に特許発行となった出願(122条(b)(2))、非公開請求の出願は公開されません。

 

 (3)非公開請求

・出願発明が他国又はPCT出願の公開制度により公開されておらず、将来も公開されることがない場合は、非公開請求が可能です(122条(b)(2)(B))。

・非公開請求は、出願と同時に行い、宣言書の提出が必要になります。

 

3.審査

 

 (1)審査請求制度

 審査請求制度はありません。

 

 (2)限定要求

 

(a)2以上の独立した別個の発明が一出願中にクレームされている場合、審査官は出願人に対し発明を選択してクレームを限定するよう要求します。

 

(b)種類

・狭義の限定要求

 審査官が複数のクレームを、独立した別個の発明毎に、グループⅠ、Ⅱ・・・に分け、出願人に対し、何れのグループを選択するかを要求するもの。

選択要求

 一出願中に一つの属(generic)クレームと、それに包含される複数の種(species)がある場合に、属クレームが許可されないときに備えて、審査官が出願人に対して種を選択(elect)するよう要求するもの。

 

(c)応答期間

 書面の場合、1ヶ月2月の場合は30日間)。最大5ヶ月まで延長可能。

 

 (3)実体審査

 

(a)特許要件

・不特許事由(自然法則、自然現象、抽象的概念、数学的アルゴリズム)

・新規性(102条)

 内外国公知公用、内外国刊行物。有効出願日を基準に判断(先願主義)。

・非自明性(103条)

・ダブルパテント(101条)

 同一発明型(same invention type)と、非法定型(nonstatutory-type)の2種類があります(MPEP § 804)。非法定型の多くは、自明型(obviousness type)ダブルパテントと呼ばれます。

グレースピリオド

 クレームされた発明が、有効出願日前1年以内に発明者等により開示されていた場合は、その開示は先行技術となりません。

 また、自身の発表後に独自発明の第三者が同じ発明を発表又は米国出願をしても、第三者の開示は先行技術にはなりません。

 

(b)審査手続

拒絶理由通知(Office Action

 審査の結果、特許要件を満たさない出願については、Office Actionが通知されます。

 Office Actionには、発明主題に特許性がない(Rejectionと、記載不備のObjectionがあります。

 応答期間 発行日から3ヶ月以内最大3ヶ月の延長可。

Quayle Action

 軽微な記載不備等を除いて特許可能と判断した場合に発行されるものです。

最終拒絶理由通知(Final Office Action

 Office Actionに対する意見書等を判断した結果、拒絶理由が解消されていないと判断された場合、あるいは新たな拒絶が必要となった場合に発行されます。

 応答期間 発行日から3ヶ月以内最大3ヶ月の延長可。

Advisory Action

 出願人は最終拒絶理由通知に対して補正をすることができますが、この補正によっても、特許許可できない場合、審査官はAdvisory Actionを発行します。

 この通知に対し出願人は、最終拒絶理由通知発行日から6ヶ月以内に、審判請求(Appeal)又は継続審査請求(RCE)を行うことができます。

・特許許可通知(Notice of Allowance

 審査官が、特許可能と判断した場合に、発行されます。

 出願人は、通知発行日から3ヶ月以内特許料を納付する必要があります。延長不可。

 

(c)審判請求(Appeal

Final Office Actionを受けた場合、出願人は審判を請求することができます(134条)。

・出願人が審判請求をした場合、審判請求日から2ヶ月以内審判請求理由補充書を提出する必要があります。さらに、延長料金を納付することにより、最大で5ヶ月の延長が可能です。

 

(d)継続審査請求(RCERequest for Continued Examination

・継続審査請求とは、審査の再開を請求する手続をいいます。

・一般に、Final Office Actionに対する応答で実質的な補正が必要な場合、Advisory Actionを受けた場合などに行われます。

・審判請求後もRCEは可能です。

 

(e)継続出願(CAContinuation Application

・継続出願とは、親出願の開示範囲内で、同一の出願人により行われる後の出願をいいます。

・時期的要件 原出願が特許又は放棄される前

・継続出願の明細書は、原出願と同一であることが必要です。新規事項の追加は認められません。

・継続出願は、一般に、原出願が拒絶された場合に審判請求の代わりに利用され、又は一部のクレームが特許許可された場合に、他の拒絶されたクレームについて権利化を図る場合に利用されます。

 

(f)一部継続出願(CIPContinuation In-Part Application

・一部継続出願とは、原出願に対して、新規事項(New Matter)を追加して出願することをいいます。

・原出願の内容については、原出願の出願日の利益を受けることができますが、新たに追加された事項については受けられません。

・時期的要件 原出願が特許又は放棄される前

・出願人は、親出願と同一の出願人であることが必要です。

・なお、宣誓書の提出が改めて必要になります。

 

(g)分割出願(Divisional Application

・限定要求により選択しなかった発明については、分割出願により権利化が図れます。

・時期的要件 原出願が特許庁に出願が係属している期間内

 

 (4)早期審査、優先審査等

 

(a)特許審査ハイウェイ(PPH

・日本出願を基礎としてパリルート又はPCTルートで出願された米国出願などが対象です。

 但し、・対応JP出願*で、少なくとも1つのクレームが特許可能と判断されていること、又は国際調査機関若しくは国際予備審査機関の見解書、又は国際予備審査報告において、少なくとも1つのクレームが新規性・進歩性等が肯定されていることが必要です。

 

(b)Make Special

・出願人の健康上の理由や年齢(65歳以上)、環境基準、エネルギー資源の開発等に寄与する発明、超伝導に関する発明、組換DNA関連発明、エイズ・癌関連発明、小規模事業体(small entity)によるバイオテクノロジー関連出願、製造予定又は侵害されている場合などが対象です。

12ヶ月以内に審査が完了します。

 

(c)優先審査(Prioritized Examination

優先審査費用(USD 4,800)を納付することにより、優先審査が受けられます。

先行技術調査が不要です。

・要件

 独立クレームが4個以内、クレームの総数が30個以内であること。

 PCT経由国内移行出願、再発行出願、意匠出願、仮出願でないこと

 発明者が署名した宣誓書が提出されていること

・優先審査の対象となった日から12ヶ月以内に最終処分がなされます。

・但し、Office Actionに対しては応答期間内に応答する必要があります。

 

 

4.情報開示義務(Information Disclosure Statement

 

 (1)情報開示義務

・出願人等は、特許性に関する重要な(material)情報について、公正かつ誠実に提供する義務が課せられています。

 

 (2)提出時期

 

(a)出願日(国際出願の場合は、国内段階移行日)から3ヶ月以内、又は最初のOffice Actionの通知前(RCEをした場合はRCE後の最初のOffice Action

 この場合、IDS提出手数料は無料となります。

 

(b)Final Office Actionの通知前、又は特許許可通知前

 陳述書(statement)の提出が必要になります。IDS提出手数料は無料

 

(c) 特許料の支払い前

 陳述書(statement)の提出と共に、手数料($180.00)の納付が必要になります。

 

(d) 特許証の発行前

 この場合、特許発行の取下げを求めるpetition(請願)を提出し、継続出願又はRCEをする必要があります。

 

(e) 特許発行後

 包袋に入れておきたい場合は、先行技術の提供を行うことができます。また、補充審査Supplemental Examination)や査定系再審査請求reexamination)を行う方法もあります。

 

 (3)開示対象

特許性に関する重要な情報information material to patentability

 例:特許公報、刊行物、対応外国出願のサーチレポート、拒絶理由通知、拒絶査定、審判における通知など

 

 (4)IDS提出が必要な出願

・通常の特許出願、再発行出願、再審査請求

 

 

5.情報提供制度

 

 (1)特許発行前の情報提供(Pre-Issuance Submission)(122(e)

・第三者、利害関係は不要です。

・下記の何れかの日の早い方の日前。

 ①特許許可通知付与日又は発送日、又は

 ②出願公開の6ヶ月後、若しくは最初のOffice Action発行日、のいずれか遅い日

 

 (2)第三者による情報提供(規則1.99

第三者

・下記の何れかの日の早い方までに情報提供する必要があります。

 ①出願公開日から2ヶ月以内、又は

 ②特許許可通知の発送日

・提供可能な特許又は刊行物の数は、10以下です。

 

 (3)プロテスト(規則1.291

・出願公開前、又は特許許可通知の郵送日の何れか早い方までに情報提供できる制度です。

・提供できるものは刊行物等に限定されません。

 

 

6.特許付与後のレビュー制度

 

 (1)特許付与後レビュー(Post-Grant Review Proceedings

 

(a) 申立人

・申立人:匿名での申立不可。特許権者も不可。

・当事者が、クレームの無効を主張する訴訟を提起した場合、申立は不可。

 

(b) 時期的要件

特許発行、または再発行から9か月以内

 侵害訴訟の訴状の送達から1年以上経過後も申立不可

 

(c) 申立理由

101条(発明性)、102条(新規性)、103条(非自明性)、112条(記載要件)、251条(再発行)

 

(d) 審理

・特許付与後レビュー開始の決定基準は、クレームの無効の可能性を立証しているか否か(more likely than not)。

限定的なディスカバリ手続の導入

エストッペルの適用(325(e)

 特許有効の決定がなされた場合、申立人は民事訴訟やITC訴訟において、同じ根拠で無効を主張することはできません。

和解が可能(327条)。その場合、エストッペルは適用されません。

 

(2)当事者系レビュー(Inter Partes Review

 

(a) 請求人

第三者のみ匿名は不可)。第三者は手続に参加することも可能。

 

(b) 時期的要件

特許発行後から請求可能です。但し、付与後レビューがあった場合は、その終了後

・但し、請求人が無効確認訴訟を提起した場合は請求できません。

・侵害訴訟の訴状の送達から1年以上経過した後も請求できません。

 

(c) 請求理由

・新規性、非自明性でいずれも文献に基づくものに限られています。

 

(d) 審理

・当事者系レビュー開始の決定基準は、請求人が勝つ”Reasonable Likelihood”があるか否かとなっています。

限定的なディスカバリ手続があります。

・決定に対し、不服申立はできません。

エストッペルの適用(315(e)

 特許有効の決定がなされた場合、申立人は民事訴訟やITC訴訟において、同じ根拠で無効を主張することはできません。

・クレーム発明を無効とするための立証基準

 「優勢な証拠Preponderance of Evidence)」

和解が可能(317条)。その場合、エストッペルは適用されません。

 

 (3)補充審査(Supplemental Examination

・特許権者は、すでに付与された特許について補充審査手続の開始を請求することができます。

・補充審査手続は、審査過程で検討されていなかった追加情報を検討させることで、特許が権利行使不能(patent unenforceability)になるリスクを回避するものです。

 

(a) 請求人

特許権者

第三者は請求不可、参加も不可。

 

(b) 時期的要件

・特許の権利行使可能な期間中であれば、いつでも請求可能です。

・また、上記の期間中、何回でも請求可能です。

 

(c) 審査

・補充審査において特許性に関し実質的に新たな問題を生じていると判断された場合、査定系再審査において審査がなされます。

 

(e) 費用

USD 5,140+1,6120(但し、補充審査で特許性に関する実質的に新たな問題を生じないと判断された場合は、USD 1,6120が返還されます。)

 

 (4) 査定系再審査(ex parte Reexamination)

 

(a) 何人も請求可能。

 

(b) 時期的要件

権利行使可能な期間であればいつでも可能です(特許失効から6年以内)(301条、302条)。

 

(c) 審査

・先行技術を引用した上で、クレーム単位で請求します。但し、再審査請求しなかったクレームも再審査の対象とされます。

・再審査請求の取下や放棄は不可

特許又は刊行物に基づいてのみ、特許の有効性を争うことができます(301条)。

・再審査を要求する際には、特許性に関する実質的な新たな問題 (substantial new question of patentability) が提起されている必要があります(303(a))。

・特許権者による再審査の場合、補正案の添付が可能です。但し、クレームを拡張する補正は不可。

・再審査請求がされると、審査官は特許性に関する実質的な新たな問題が提起されているかを、請求から3ヶ月以内に決定します。

・この決定に対し、特許権者は2ヶ月以内に、statementを提出することができます。第三者はstatementに対し答弁書(reply)を提出することができます。

・再審査の結果、特許性が認容されたクレームは、その内容で元の特許が発行されたものと同様の効果を有します。

 

 

7.再発行・訂正

 

 (1)再発行出願(Reissue Application)(251条)

(a) 特許権者は、誤りにより特許が実施不能又は無効であると考える場合、再発行出願をすることができます。

 

(b) 「誤り」要件

・以下の場合に限られています。

①明細書・図面に欠陥があること

クレーム発明が狭すぎる、又は広すぎること

・単に狭い範囲のクレームを追加することは、不可です。

 

(c) 出願手続

IDS提出義務あり

・継続出願、分割出願、RCEが可能です。但し、CIP出願は不可

クレームを拡張することが可能です(251条)。

 但し、元の特許発行の日から2年以内に再発行出願をする必要があります。また、元の特許の審査過程で放棄した発明について再発行出願することはできません(Recapture Rule)。

・元の特許で優先権主張がされていた場合は、再発行出願でも必要です。

 

(d) 審査

・審査は通常の出願と同様に進められます。

 

 

8.真の発明者を決定する手続き(Derivation Proceeding

 

(1)後願の発明者が、同じ発明について、先願の発明者が当該後願の発明者からその発明を取得したことを示すことにより、その発明についての後願のクレームを拒絶又は削除させることが可能になります。

 

(2)以下の場合に、該当クレームを取り消すことができます。

①先の出願に記載されている発明者が申立人の出願に記載されている発明者を冒認した場合、

②無権限で出願された場合

 

(3)時期的制限・冒認された発明がクレームされた出願の公開、又は特許の発行から1年以内135(a))。

 

(4)和解135(e))、仲裁135(f))の手続があります。

 

 

9.米国特許の効力

 

 (1)特許権の存続期間

・原則、出願日から20年間(199568日以後の出願)

特許期間の調整PTAPatent Term Adjustment

 特許出願から特許の発行までに要した期間(審査期間)が米国特許商標庁(USPTO)の責任により必要以上に遅延した場合には、特許権の存続期間がその遅延分だけ1日単位で延長されます。

 但し、出願人の責任で審査期間が遅延していた場合は、USPTOの責任による遅延分から出願人の責任による遅延分を差し引いて特許期間が算出されます。

・特許期間の延長制度

 連邦食品医薬化粧品法の適用を受ける医薬品、医学機器、食品又は色素添加物、又は当該製品を使用もしくは製造する方法については、一定の条件下で特許期間を延長することができます(35 U.S.C.§156)