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判例・実務情報

【米国最高裁、特許】 バイオ関連発明の特許適格性 Prometheus事件



Date.2014年4月9日

MAYO COLLABORATIVE SERVICES DBA MAYO MEDICAL LABORATORIES ET AL. v. PROMETHEUS LABORATORIES INC.

 

・判決日:2012320

101条、特許保護適格性、Machine or Transformation Test

 

 

(経緯)

 被上告人(原審原告)であるPROMETHEUS LABORATORIES INC.(以下、「Prometheus」という。)は、自己免疫疾患を治療するためのチオプリン製剤に関する米国特許第6355623号及び第6680302号(以下、「623特許」及び「302 特許」)の特許権者であり、上告人(原審被告)MAYO COLLABORATIVESERVICES 及び MAYO CLINIC ROCHESTER(以下、「Mayo」という。)が、623 特許及び302特許の特許権を侵害しているとして、カリフォルニア南部地区連邦地方裁判所に訴えを提起した。

 

 本件特許のクレーム1は以下の通りである。

1.    A method of optimizing therapeutic efficacy for treatment of an immunemediated gastrointestinal disorder comprising:

       (a) administering a drug providing 6-thioguanine to a subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder; and

       (b) determining the level of 6-thioguanine in said subject having said immune-mediated gastrointestinal disorder

       wherein the level of 6-thioguanine less than about 230 pmol per 8×108 red blood cells indicates a need to increase the amount of said drug subsequently administered to said subject and wherein the level of 6-thioguanine greater than about 400 pmol per 8×108 red blood cells indicates a need to decrease the amount of said drug subsequently  administered to said subject.

 

(1.免疫介在性胃腸疾患の治療効果を好適化する方法であって、

a)前記免疫介在性胃腸疾患を有する患者に、6-チオグアニンを提供する薬剤を投与し、

b)当該患者における 6-チオグアニンのレベルを決定し、

 6-チオグアニンのレベルが8×108赤血球当たり約230 pmol未満の場合は、当該患者に対するその後の薬剤投与量を増加させる必要性を示すとともに、6-チオグアニンのレベルが8×108赤血球当たり約400 pmol を越える場合は、当該患者に対するその後の薬剤投与量を減少させる必要性を示す方法。)

 

(地裁の判断)

 地裁は、本件特許が特許法第101条の特許適格性要件を満たさず無効であるとして、20085月、請求を棄却した。

 特許適格性を満たさないとした理由は、以下の通りである。

 

・ステップ(a)、(b)は、その相関性を見るために単に必要とされる情報収集ステップ(merely necessary data-gathering steps)を記載するものである。

 

wherein以下の節は、薬剤の代謝レベルと治療効果の相関性(correlation)を記載しているにすぎず、精神的なステップである。

 

CAFCの判断)

 地裁の判断に不服のPrometheusは、CAFC(連邦巡回区控訴裁判所)に控訴した。CAFCは、Machine or Transformation Test (MoT Test)に基づき、本件特許が特許適格性を満たすとの判決をした(第1次判決)。

 その後、本件は最高裁に上告されたが、最高裁は、20106月のBilski事件最高裁判決によりMoTテストが101条の唯一の判断基準ではないとされたため、第1次判決を破棄した。

 事件が差し戻されたCAFCは本件を再審理したが、MoTテストは101 条の特許適格性の判断ツールの1つとして依然として有効であるとし、本件特許については、薬剤の投与によりその薬剤が体内で代謝され、物質として変化して人体に作用しており、このような変化を伴う薬剤の投与ステップはTransformationである等として、再び特許適格性を満たすとの判断をした(第2次判決)。

 

(最高裁の判断)

 最高裁は、本件特許が特許適格性を満たしておらず無効であるとして、CAFCの第2次判決を破棄した。

 その理由について最高裁は、以下の通り述べている。

 

・「自然法則、自然現象及び抽象的なアイデア」は、米国特許法101条の下、特許可能な主題ではないが、それが公知の構造やプロセスに対する自然法則の応用については、特許保護される(Diamond v. Diehr)。しかし、特許対象でない自然法則が特許可能な応用に変換されているというためには、特許は単に自然法則を記載するだけでなく、その応用の具体的な記載が付加されていなければならない。

 

・抽象的なアイデアは特許の対象外であるが、抽象的なアイデアを特定技術で使用することに限定するだけでは、特許適格性を満たすことにはならない。

 

・本件特許は、投与後の血中の薬剤の代謝物の量と、その薬剤による効果及びリスクの可能性との相関関係を記載している。しかし、これは自然法則そのものである。

 

・本件特許は、自然法則の応用を確実に具現化する追加的特徴を記載しない限り、特許されるものではない。むしろ、その自然現象である相関性を独占することを狙ったクレーム作成者の努力に過ぎない。

 

・本件の争点は、自然法則である相関性の記載に対して、それを利用する特許方法が「十分なもの」を付加するように記載されているかどうかである。

 

 また、本件特許が特許適格性を有しないと判断した理由については、以下の通り述べている。

 

・投与するステップ(a)と決定するステップ(b)はいずれも、変換がない。

 

・投与するステップ(a)は、単に相関性を知る必要がある患者のグループを特定するステップである。本件特許が存在する前に、医師はその薬剤を患者に投与するという行為を行っている。

 

・決定するステップ(b)は、医者に代謝物レベルを測定することを指示するステップである。実際にどのようなステップを経由するにせよ医師が望むであろう方法で行われる。決定するステップ(b)は、本件の技術分野で周知、かつルーティンであり、従来から存在する行為である。決定するステップ(b)は、医師を周知の行為に関与させることを述べているに過ぎない。

 

wherein以下の節は、医師に自然法則を伝えるだけである。

 

・本件特許は、自然法則を高度に具体化しているが、一般的な従来のステップを付加する域を出ていない。結局、上記のようなステップを組み合わせても、自然法則以上のものを何ら付加するものとはいえない。

 

 

(判決文) http://www.supremecourt.gov/opinions/11pdf/10-1150.pdf