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判例・実務情報

【欧州、特許】 欧州特許制度の概要(改訂)



Date.2015年4月2日

1. 欧州特許条約(EPC

 

 欧州特許条約とは、特許付与の統一規則を定め、特許付与の手続を一元化することにより、欧州各国間で容易かつ経済的に特許の取得を可能にすることを目的としたものです。

 但し、欧州特許庁が付与する特許は、国内特許の束bundle of national patents)であるといわれており、例えば、成立した特許権の効力は各締約国の国内法令で定めるため国によって異なります。また、成立した特許権の有効性についても各国毎に争われることになります。

 

 

2.加盟国

 

(1) 欧州特許条約の加盟国(2015 9月現在、計38ヶ国)

 

オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、モナコ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、イギリス、マケドニア、アルバニア、サンマリノ、セルビア

 

(2)その他

 ボスニア・ヘルツエゴビナ、モンテネグロは、拡張国(Extension States)として欧州特許出願により保護を求めることができます。

 

 

3.手続

 

(1)出願

 

(a)言語

英語ドイツ語又はフランス語のいずれか一の言語。

 

(b)特許出願時の必要書類

・願書(Request)、

 代理人が署名可能です。

・明細書、クレーム、要約、必要な図面

委任状は提出不要です。

・優先権証明書

 原則、優先日から16ヶ月以内に提出する必要があります。しかし、基礎出願が日本出願、又は日本国特許庁を受理官庁とするPCT出願である場合は、提出不要です。

・優先権証明書の翻訳文

 審査官から提出要求された場合のみ提出する必要があります。

・留意点

 日本語の明細書等で出願可能です(14条)。但し、出願日から2ヶ月以内に、上記いずれか一の言語による翻訳文を提出しなければなりません。この期間内に翻訳文を提出しなかった場合、提出指令がなされます。出願人はその提出指令から2ヶ月以内に翻訳文を提出することができます。尚、PCT経由EPC移行出願には適用されません。

 

(2)費用(2016年4月現在)

 Euro-PCT出願の場合

 

(a)出願料金

・電子出願の場合 EUR 120

・クレーム加算料金(16個から50個まで) EUR 235

・クレーム加算料金(51個以上)EUR 585

・出願サイズ料金(36頁以上1頁当たり) EUR 15

 

(b)調査手数料

・2005年7月1日以前の出願 EUR 885

・2005年7月1日以降の出願 EUR 1,300

 

(c)指定国料金 EUR 585

 

(d)出願審査請求料金(クレーム数とは無関係)

・2005年7月1日以前の出願  EUR 1,825

・2005年7月1日以降の出願  EUR 1,635

 

(e)特許付与・印刷・公告料金 EUR 925

 ・明細書36頁以上1頁当たり加算額 EUR 15

 

(f)異議申立料金 EUR 785

 

(g)審判請求料金 EUR 1,880

 

(h)出願維持年金

 3年度 EUR 470

・4年度 EUR 585

 5年度 EUR 820     

6年度 EUR 1,050

 7年度 EUR 1,165

8年度 EUR 1,280

 9年度 EUR 1,395

・10年度 EUR 1,575

 

 

4.出願公開制度

 

(1)公開時期

 出願日(優先権主張を伴う出願の場合は、最先の優先日)から18ヶ月経過後に、出願公開されます。

 また、出願人から請求があった場合には、18ヶ月経過前でも出願公開されます。

 

(2)出願公開の通知

 EPOは、欧州特許公報において欧州サーチレポートの公開について言及する日付を出願人に通知します。審査請求の期間はこの日付から開始します。

 また、EPOは、欧州サーチレポートの公開について言及する日付から6ヶ月以内指定手数料を納付しなければならないことも出願人に通知します。

 

 

5.審査請求制度 

 

EPC出願は、審査請求手続をしないと審査されません。審査請求の時期は以下の通りです。

(1)EPC出願

 出願日から、欧州特許公報で欧州サーチレポートの公告に言及した日の後6ヶ月の末日まで。  

 

(2)EURO-PCT出願

 PCTサーチレポートの公開、又は優先日から31ヶ月以内の何れか遅い期限が満了するまで。

 

(3)欧州サーチレポートの送付前に審査請求を行った場合

 EPOは審査継続の意思確認(規則70(2))をします。通知に対し応答しない場合は、取下擬制となります(規則70(3))。

 尚、追加の欧州拡張サーチレポート(EESR)を受領すると、6ヶ月以内にこれに応答しなければなりません。この場合、EESRに応答することによって、審査継続の意思確認があったものと解釈されます。

 

 

6.サーチレポート

 

(1)サーチレポートの種類

 欧州特許庁が作成するサーチレポートには、下記表の通り、拡張欧州サーチレポート(EESRExtended European search report)、国際調査報告、国際予備審査報告があります。

 このうち拡張欧州サーチレポートは、さらに出願の種類により2つ分類されます。

 PCTを経由せずに直接、欧州に出願された直接EPC出願に対しては、拡張欧州サーチレポートは欧州サーチレポートと調査見解書を含みます。

 一方、PCTを経由して欧州広域段階に移行されたEURO-PCT出願に対しては、拡張欧州サーチレポートは補充欧州サーチレポートと調査見解書を含みます。

 

(2)応答

 拡張欧州サーチレポートが特許性に関し否定的な内容である場合、出願人は下記表の期限内に、応答する義務があります。期限内に応答しない場合、出願は取下擬制となります。

 応答期間は延長不可。但し、Further Processing の適用を受けることが可能。

 補正も可能です。

 

 

出願の種類

国際調査機関/国際予備審査機関*1

サーチレポートの

種類*2

応答期限

直接EPC出願

EESR

(ESR+調査見解書)

EESRの公開から6ヶ月以内
EURO-PCT出願

(日本語でPCT出願し欧州移行)

JPO

EESR

(SESR+調査見解書)

EESR公開後に発行される審査継続の意思確認の通知(規則70(2)70a(2))から6ヶ月以内
EURO-PCT出願

(英語でPCT出願し欧州移行)

JPO

EESR

(SESR+調査見解書)

EESR公開後に発行される審査継続の意思確認の通知(規則70(2)70a(2))から6ヶ月以内

EPO

ISR/IPER ISRの公開又は欧州移行の遅い方から約2ヶ月後に発行される応答要求の通知(規則161(1))から6ヶ月以内

*1 JPO:日本国特許庁、EPO:欧州特許庁

*2 ESREuropean Search Report 欧州サーチレポート

  SESRSupplementary European Search Report 補充欧州サーチレポート

  EESRExtended European Search Report 拡張欧州サーチレポート(ESR又はSESR+調査見解書)

  ISRInternational Search Report 国際調査報告

  IPERInternational Preliminary Examination Report 国際予備審査報告


7.審査

 

(1)方式審査

 

(a) 出願後、出願人の表記、明細書及び請求の範囲を含んでいるか否か等について審査がなされ、出願日を付与するか否かの判断がされます。

 

(b) 出願日が付与された出願は、他の要件、要約、図面等に関する方式審査が行われます。

 不備がある場合、指定期間内に補正をすべき旨の補正指令が通知されます。この指定期間内に補正がされなかった場合、その出願は拒絶又は取下擬制となります。

 

(2)実体審査

 

(a)特許要件

・不特許事由(科学的な理論や算術的な方法、及び発見にすぎない場合、単なる情報の提供にすぎない場合、精神的活動に関する計画や方法、遊戯的な方法。コンピュータプログラム自体、審美的な創造物の場合、公序良俗、動植物品種、医療方法(人や動物に対する手術処置方法、治療処置方法、診断方法))

・新規性

 絶対新規性が採用されています。例えば、未公開出願の出願人と後願の出願人が同一の場合(いわゆる自己衝突)でも、発明が同一と判断されれば、新規性は否定されます。

・ダブルパテント

 先願と後願が同一発明の場合、後願はダブルパテントとなり拒絶されます。

 但し、先願が取り下げられ、出願公開されなかった場合は、同一発明についての後願は特許を受けることができます。

・進歩性

 ・課題-解決アプローチの採用

 最も適した単一の先行技術を特定し、クレーム発明と先行技術を対比して、クレーム発明が達成する技術的な成果を評価します。さらに、これらの成果を達成することを発明の目的を、解決されるべき客観的な技術的課題として特定します。最後に、出願時(優先日)において、当業者がクレームされたその課題の解決手段を自明としたであろうか否か検討します。

・新規性喪失の例外の規定

 以下の場合において、出願が6ヶ月以内に行われた場合には、新規性は喪失しません。

 I) 出願人の意に反する行為

 II) 国際博覧会に発明を出品したことにより発明が公知となった場合

 新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、出願の際にその旨の申立てをし、出願日から4ヶ月以内に証明書を提出する必要があります。

 なお、出願人の行為に起因して発明を公表した場合には、適用が受けられません

 

(b)審査手続

・審査の結果、特許要件を満たさない出願については、Communicationが通知されます。

・応答期間 発送日から4ヶ月以内2ヶ月の延長可

・応答しても拒絶理由が解消できないときは、拒絶決定が通知されます。この拒絶決定に不服の場合は、Appeal(審判請求)することになります。

・拒絶理由がなかった場合、又は拒絶理由が解消された場合には、許可通知Notice of Allowance)がなされます(規則71(3))。

・許可通知においては、審査官により許可可能な発明が記載されています。この発明の内容について異議がある場合、出願人は反論することができます。

・審査官の提示した発明の内容に同意する場合は、出願人は許可通知の日から4ヶ月以内に、手数料の納付と、手続言語以外の他の二つの言語によるクレームの翻訳文(例えば、手続言語が英語の場合には、ドイツ語及びフランス語の翻訳文)の提出をする必要があります。

・手数料の納付又は翻訳文の提出がなかった場合、出願は取下擬制となります。

・手数料の納付及び翻訳文の提出が行われた後、特許査定(Decision To Grant)が通知されます。

10日間ルール

 EPOからの郵便による送達は、発送日に対してプラス10日間の日になされたものとして取り扱われます。従って、実際の発送日から起算した期限よりも、さらに10日間の猶予期間が加算されます(規則126(2))。

 

(c)分割出願

・分割出願の時期

 以下の場合に制限されています。

 I) 特許査定の場合、欧州特許公報における欧州特許付与の旨の公表日まで

 II) 拒絶査定の場合、審判請求書の提出期間の満了日まで

 

(d)継続手続き(Further ProcessingEPC121条))

・出願人が応答期限を徒過した場合、期限が徒過した旨の通知から2ヶ月以内に必要な料金を納付することにより権利の回復が図れます。

・但し、優先権主張や審判請求の期限徒過は除かれます。

 

(3)早期処理の請求、早期審査の請求

 

(a) 早期処理の請求

・対象 EURO-PCT出願

・国内移行段階では、原則、所定期間が経過するまで、国際出願の処理及び審査をすることはできません。しかし、早期処理の請求を行うことにより、所定期間経過前でも早期の処理及び審査を求めることが可能になります。

 

(b) 早期審査の請求

・対象 通常のEPC出願、EURO-PCT出願

・早期審査手続きの具体的内容

 

I)早期調査(Accelerated Search)

・優先権を伴わない出願の場合

 常に早期調査の対象となっており、6ヶ月以内にサーチレポートが発行

・優先権を伴う出願の場合

 早期調査を請求しなければ、早期にサーチレポートが発行されることはありません。

 請求は、出願と同時に可能。

 

II)早期審査(Accelerated Examination)

出願と同時サーチレポートへの応答時その後において請求可能。EURO-PCT出願では、欧州段階への移行時、又はその後に請求可能。

EPOは、審査部が出願書類の受領、又は早期審査請求の受理のいずれか遅い日から、3ヶ月以内に最初の審査通知を発行します。

・出願人はEPOからのいかなる通知に対しても、指定期間内での応答が必要。

・出願人が指定期間の延長を請求した場合、手続きは中止されます。

 

 

8.異議申立て

 

(1)異議申立期間 特許付与の公告の日から9ヶ月以内

 

(2)何人も異議申立て可能

 

(3)異議申立ての理由

・特許の対象が特許性に欠けている場合

・欧州特許明細書に当業者が発明を実施し得る程度に十分かつ明確に発明が開示されていない場合

・特許の対象が出願時の開示内容を超えている場合

 

(4)特許権者の対応

・指定期間内(通常4ヶ月)に、答弁書及び補正をする場合は補正書の提出が可能。

 

(5)異議申立人の対応

・特許権者が提出した答弁書及び補正書に対し、指定期間内に弁駁書を提出することが可能。

 尚、指定期間は、特許権者が補正をした場合は4ヶ月、補正をしなかった場合は2ヶ月

 

(4)その他

 異議申立て審理手続中に、特許権者が明細書等の補正を行い、その補正された内容で異議申立ての決定があった場合には、特許権者に新たな特許証が発行。

 

 

9.審判

 

(1)拒絶決定又は異議申立の決定に対して審判請求が可能です。

・請求期間 拒絶決定又は異議決定の通知から2ヶ月以内に審判請求書を提出。延長不可

・また、決定の通知の日から4ヶ月以内に、審判請求理由書を提出。延長不可

新たな主張は原則として不可。手続の続行請求も不可。

・原則、書面審理(必要に応じて口頭審理)

 

(2)拡大審判部

・審判において、重要な法律問題が生じた場合は、拡大審判部に付託されます。

・法律問題の付託は、審判部又は審判手続の当事者が行うことが可能。

・審判部の審理に重大な欠陥があった場合、当事者は拡大審判部に再考を請願することができます。

 

 

10.特許付与後の補正

 

(1)補正

 特許権者はEPOに対して、特許付与後の補正手続きによりクレームを減縮補正することができます。また、特許の取消しも請求可能です。

 

(2)料金の納付が必要

 この請求をするための理由の記載は不要。

 

(3)補正の時期

・クレームの減縮補正の請求は、特許異議申立て手続きが係属中の場合を除き、いつでも可

・但し、減縮補正の請求手続中に異議申立てがあった場合、請求手続は終了します。

・特許の取消請求は、異議が申立てられた場合においても続行されます。

 

 

11.欧州特許の効力

 

(1)特許権の期間

 原則、出願日から20年間

 

(2)特許権の効力

 欧州特許公報に欧州特許権を付与する旨の公告がされると、その公告の日から、各指定国においてその国で付与された国内特許と同様の権利を有します。

 

(3)翻訳文

 各指定国は欧州特許明細書が自国の公用語で作成されていない場合、特許権者に対し所定期間内に自国の公用語への翻訳文の提出を要求することができます。翻訳文が提出されない場合は、その指定国で特許権が発生しません。