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判例・実務情報

【米国、特許】 米国特許出願におけるIDS(情報開示陳述書)の提出(改訂)



Date.2014年11月14日

米国特許出願におけるIDS(Information Disclosure Statement: 情報開示陳述書)の提出について

 

 

1 提出の義務を負う者

・「特許出願又はその手続の遂行に関与する者」

 例えば、発明者、譲受人(発明者が勤務する会社等)、弁理士、弁護士、その他出願手続に関与した者

 

 

2 提出時期

(a) 出願日(国際出願の場合は、国内段階移行日)から3ヶ月以内、又は最初のOffice Actionの通知前(RCEをした場合はRCE後の最初のOffice Action

この場合、IDS提出の手数料無料となる

 

(b) Final Office Actionの通知前、又は許可通知前

 陳述書(statement)の提出が必要(37 CFR 1.97(c))。陳述書には、例えば、対応する外国出願の審査において先行技術文献が引用されてから3ヶ月以内、又は知ってから3ヶ月以内に提出したことを陳述する(37 CFR 1.97(c))。手数料は無料

 但し、3ヶ月を経過している等の理由で陳述書を提出できない場合は、手数料($180.00)を支払う(37 CFR 1.17(p))。

 

(c) 特許料の支払い前

 陳述書(statement)の提出と共に、37 CFR 1.17(p)に指定される手数料($180.00)を支払う(37 CFR 1.97(d))。

 

(d) 特許証の発行前

 この場合、特許発行の取下げを求めるpetition(請願)を提出し(37 CFR 1.313(c)(2),(3))、継続出願又はRCEをしてIDS提出をすることができる。あるいは、特許料納付後のIDS提出手続に関するパイロットプログラム(Quick Path Information Disclosure Statement (QPIDS))により、RCEの手続きを省略してIDS提出を行うことも可能である(当該パイロットプログラムは2015年9月30日までとなっている。)。

 

(e) 特許発行後

 包袋に入れておきたい場合は、先行技術の提供を行うことができる(37 CFR 1.501)。

 審査官に先行技術文献の内容を考慮させたい場合は、補充審査(Supplemental Examination)や査定系再審査の請求を行う。

 

 

3 開示対象

(a) 「特許性に関する重要な情報」(information material to patentability

具体的には、以下のものが挙げらる。

・特許公報、刊行物

・使用、販売、その申し出、知得、他人による先発明、発明者の不一致等に関する情報など(MPEP 2001.04

・対応外国出願で引用された先行技術文献、関連する米国出願に関する情報、関連する訴訟において得られた情報など(MPEP 2001.06

対応外国出願のサーチレポート、拒絶理由通知、拒絶査定、審判における通知など

 

(b) 国際出願から米国へ移行させた出願において、国際調査で引用された引用文献のIDS提出は不要

 国際予備審査で引用された文献(国際調査で引用された文献を除く)については、MPEP 1893.03(g)でどのような扱いとされるか明示の記載はない。従って、万全を期す場合は、IDS提出するのがよい。

 

 

4 IDS提出が必要な出願

(a) IDSが必要な場合

 通常の特許出願、再発行出願、再審査請求(37 CFR 1.555)

 

(b) IDSが不要な場合

 CPA(審査継続出願)、CIP(一部継続出願)、分割出願、仮出願

 但し、継続出願の提出後は、引き続き情報開示の義務がある。

 

 

5 提出書類

(a) 文献等のリスト(37 CFR 1.98(a)(1)~(5)

 

・リストへの記載内容(37 CFR 1.98(b)(1)~(5))

 米国特許:発明者,特許番号、発行日

 米国特許出願公開:出願人,公開番号、公開日

 米国特許出願:発明者,出願番号、出願日

 外国特許、公開された外国特許出願:国名、文献番号、公開日

 他の刊行物:著者、タイトル、関連あるページの番号、発行日、発行場所

 

(b) 文献等のコピー(37 CFR 1.98(a)(2)

 

(c) 英語以外の場合、英訳を所持等していればそのコピー(37 CFR 1.98(a)(3)(ⅱ)

 

(d) 英語以外の場合、発明との関連性について「簡潔な説明」(37 CFR 1.98(a)(3)(ⅰ)

・完全な英訳を提出した場合は、関連性についての簡潔な説明は不要。

 

 

6 情報開示義務違反が問題となった主なケース

(a) Molins PLC v. Textron, Inc. 48 F.3d 1172 (Fed. Cir. 1995)

  外国特許庁で引用された文献を提出しなかったことが、非衡平行為(inequitable conduct)に該当するとされた事例。

 

(b) Critikon, Inc. v. Becton Dickinson Vascular Access, 120 F.3d 1253 (Fed. Cir. 1997)

 再発行特許出願において、原特許が訴訟に係属していることを審査官に開示しなかったことが、非衡平行為に該当するとして、原特許及び再発行特許の何れも権利行使不可とされた事例。

 

(c) Semiconductor Energy Laboratory Co., Ltd. V. Samsung Electronics, Ltd., 204 F.3d 1368(Fed.Cir. 2000)

 提出された部分訳が文献の最も重要な(material)部分を含んでいなかったとの事実認定に基づき,特許庁を欺く意図(intent to deceive)があったとして情報開示義務違背が肯定された事例。

 

(d) FRANK’S CASING CREW v. PMR TECHNOLOGIES, LTD. 292 F.3d 1363 (Fed. Cir. 2002)

  共同発明者を除いて出願をしたことが、非衡平行為に該当し、権利行使不可とされた事例。

 

(e) Dayco Products, Inc. v. Total Containment, Inc., 329 F.3d 1358 (Fed. Cir. 2003)

  出願人が同一であり、実質的に同じクレームを有する出願が同時に継続中であることを審査官に開示しなかったが、欺く意図はなかったとして、非衡平行為に該当しないとされた事例。

 

(f) Bristol-Myers Squibb Co. v. Rhone-Poulenc Rorer, Inc., 326 F.3d 1226 (Fed. Cir. 2003)

 発明者が執筆した記事を審査官に開示しなかったことが、非衡平行為に該当するとされた事例。

 

(g) Ferring B.V. v. Barr Labs., Inc., 437 F.3d 1181 (Fed. Cir. 2006)

  出願人が審査官に第三者の供述書を提出したが、その第三者との関係を隠したことが非衡平行為に該当するとされた事例。

 

(h) M. Eagles Tool Warehouse, Inc. v. Fisher Tooling Co., 439 F.3d 1335 (Fed. Cir. 2006)

 出願人が自ら販売していた製品を審査官に開示しなかったが、販売品はクレーム発明と実質的に異なっており、重要性を認識していなかったとして、非衡平行為に該当しないとされた事例。

 

(i) Purdue Pharma L.P. v. Endo Pharmaceuticals Inc. 438 F.3d 1123 (Fed. Cir. 2006)

 クレーム発明の効果には化学的な実験による裏付けがないことを審査官に開示しなかったが、重要性は低いとして、非衡平行為に該当しないとされた事例。

 

(j) Therasense, Inc. v. Becton, Dickinson and Company (Fed. Cir. 2011) (en banc)

 欺く意図(intent to deceive)の立証基準について、出願人がその先行技術文献を知り、それが重要であることも知っており、かつ、それを意図的に開示しないと決定したことを示す明確かつ確実な証拠を要するとした。
 また、重要性(Materiality)については、もしその先行技術文献が開示されていれば、USPTOはクレームを許可しなかったであろうということを、証拠の優越的基準(a preponderance of evidence)に基づいて立証することが必要とし、スライディングスケール(sliding scale)アプローチを用いるべきではなく、いわゆる”but for”基準を採用すべきとした。