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判例・実務情報

【欧州拡大審判部、特許】 実施例に開示されていた主題を、除くクレームにより補正した場合の適法性が争われた事例



Date.2011年11月24日

・G2/10 審決日:2011年8月30日
・EPC第123条(2)、補正、除くクレーム、新規事項の追加

 拡大審判部(Enlarged Board of Appeal)は、ディスクレーマーによって除かれる主題が本願明細書の実施例として記載されていた場合に、そのことを理由として、直ちに補正の要件に違反するものではないと決定した。
 
(経緯)
 本件出願は、その審査段階において、本件と同一の発明者および出願人の先行技術文献に基づき、新規性欠如の拒絶理由が示された。出願人は、先行技術文献に記載された発明との重複部分をクレームの範囲から取り除く、いわゆる除くクレームによる補正を行った。

 この補正に対し、審査部は当該消極的限定が本願明細書には記載されておらず,むしろ,除くクレームにより除かれた主題は、本願明細書に実施例として記載されているとして、新規事項の追加による拒絶をした。

 これを不服とした出願人は、2007/2/2に技術審判部に審判請求をした。技術審判部は、除くクレームの適法性に関する問題を、拡大審判部に付託することを決定した。
 

(拡大審判部の決定)
 拡大審判部に付託された質問は、以下の通りである。
 

 「ディスクレーマーは、除く主題が出願に発明の実施例として開示されていた場合に、EPC第123条(2)に違反するか。」

 
 この質問に対し、拡大審判部は以下の通り決定した。
 

・明細書に開示された主題をクレームから除くとするディスクレーマー補正は、ディスクレーマーの導入後にそのクレームに残る主題が、明示的又は黙示的に明細書に、共通の一般知識を用いる当業者にとって直接的かつ明瞭に開示されていないときは、EPC第123条(2)に違反する。

 

・当該事項に該当するか否かの決定においては、明細書の開示の性質と範囲、除かれた主題の性質と範囲、および、補正後にクレームに残された主題との関係を考慮して、それぞれのケースの全体の技術的状況に対する技術的評価を要する。

 今回の拡大審判部の決定は、ディスクレーマーによって除かれる主題が本願明細書の実施例として記載されているという理由だけでは、新規事項の追加による補正違反にはならないとするものである。

 補正が新規事項の追加に該当するか否かは、除くクレームによる補正後のクレームが、当業者にとって新たな技術情報を提示することになるか否かによるとしている。

 また、当業者にとって新たな技術情報の提示に該当するか否かは,消極的限定の補正がなされた後のクレームが当業者にとって少なくとも暗示的に出願時の明細書に開示されているか否かに応じて判断されるべきであるとしている。さらに、その判断においては、それぞれのケースの全体の技術的状況に対する技術的評価を要するとしている。
 

(審決文) http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/C777CFB3654BB240C12578FE00485B6C/$File/g2_10.pdf