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判例・実務情報

【米国CAFC、特許】 狭い範囲のクレームが原特許から漏れていたことも、251条の瑕疵のある特許に含まれ、再発行出願が認められ得るとした事例。 In Re Yasuhito Tanaka (Fed. Cir. 2011)



Date.2011年4月22日

In Re Yasuhito Tanaka (Fed. Cir. 2011)  2011年4月15日判決

・破棄・差し戻し

・251条、瑕疵のある特許の再発行、詐欺的意図、錯誤

 

(経緯)

 Yasuhito Tanakaは、「交流発電機用の滑車」の特許発明(USP6,093,991)に関する特許権者である。当該特許は、独立クレーム1とその従属クレーム2~7からなる。

 当該特許の発行後、Tanakaは、クレーム1の範囲を拡張させることを目的として、USPTOにreissue(再発行出願)をした。また、クレーム1の範囲を拡張させる根拠として、Tanakaは「現在のクレームは、必要以上に特定されており、発明を適切に特定していない」とするデクラレーションを提出した。

 

 しかし、その審査過程において、Tanakaはクレーム1の拡張を諦め、代わりにクレーム1~7を補正することなく、より狭い範囲のクレーム16を新たに追加した。また、その際に提出されたデクラレーションでは、「アメリカの審査実務に準じてクレームする手続を十分に正確に認識していなかったので、クレームする権利を有していたものより多く又は少なくクレームしていると理解していなかった」、「現在のクレームは必要以上に特定されており、発明を適切に特定していない」と述べた。

 

 これに対し、審査官は、宣誓書で特定された錯誤は再発行出願により修正可能なものではなく、出願人はクレームの範囲を広く又は狭くしている錯誤についても特定していないとして、クレーム1~7、16について拒絶をした。

 出願人はBPAI(Board of Patent Appeals and Interferences)に審判請求をしたが、BPAIは審査官の上記拒絶を支持した。

 

(CAFCの判断)

 CAFCは、以下に述べる理由等により、BPAIの審決を破棄し、差し戻した。

  即ち、先ず、CAFCは、251条(瑕疵のある特許の再発行)の適用にあたっては、2つの要件が課されていると述べた。

 第1に、原特許がその全部又は一部において効力を生じない又は無効とみなされなけなならず、第2に、瑕疵があり、効力がなく、又は無効の特許は、詐欺的意図のない錯誤により生じるものでなければならないと述べた。

 そして、CAFCは、本件に関しては、この詐欺的意図なしに瑕疵が生じたのかについての議論がなされていないと指摘した。

 

“As interpreted by this court, the reissue statute imposes two requirements for properly invoking the reissue process. First, the original patent must be “wholly or partly inoperative or invalid.” Hewlett-Packard Co. v. Bausch & Lomb, Inc., 882 F.2d 1556, 1564 (Fed. Cir. 1989). Second, “the defective, inoperative, or invalid patent” must have arisen “through error without deceptive intent.” Id. at 1565. There is no dispute in this case that any defect arose without deceptive intent.”

 

 また、BPAIの審決は、狭い範囲のクレームが原特許から漏れていたことは、251条の上記瑕疵を構成しないと判断していたが、この点についてもCAFCは認めなかった。

 即ち、狭い範囲のクレームは、それより広い範囲の独立クレームの意味を明確にさせるのに役立つ場合があり、そのような狭い範囲のクレームが漏れていたことは、特許の効力の一部を失わせることになると述べた。

 

This court also rejects the PTO’s assertion that the omission of a narrower claim from an original patent does not constitute an error under § 251 because the omission of a dependent claim does not render the patent inoperative. While the Board correctly recognized that a patent is inoperative under § 251 if it is ineffective to protect the disclosed invention, the Board improperly assumed that Tanaka’s original patent cannot be deemed partly inoperative in the absence of claim 16, whose scope is subsumed by claim 1, from which it depends. Decision at 17-18. This court, however, has recognized that “each claim is a separate statement of the patented invention.” Pall Corp. v. Micron Separations, Inc., 66 F.3d 1211, 1220 (Fed. Cir. 1995). And each claim of a patent has a purpose that is separate and distinct from the remaining claims. Claims of narrower scope can be useful to clarify the meaning of broader, independent claims under the doctrine of claim differentiation. Phillips v. AWH Corp., 415 F.3d 1303, 1314 (Fed. Cir. 2005). And dependent claims are also less vulnerable to validity attacks given their more narrow subject matter. Thus, the omission of a narrower claim from a patent can render a patent partly inoperative by failing to protect the disclosed invention to the full extent allowed by law.

 

*参考

第 251 条(瑕疵のある特許の再発行)

 詐欺的意図のない錯誤があったために,明細書若しくは図面の瑕疵を理由として,又は特許権者が特許においてクレームする権利を有していたものより多く又は少なくクレームしていることを理由として,特許がその全部若しくは一部において効力を生じない若しくは無効とみなされた場合においては,長官は,当該特許が放棄され,かつ,法律によって要求される手数料が納付されたときは,原特許に開示されている発明について,補正された新たな出願に従い,原特許存続期間の残存部分を対象として特許を再発行しなければならない。再発行を求める出願に新規事項を導入することはできない。

 長官は,特許された対象の独自性を有し,かつ,別々の部分について,複数の再発行特許を発行することができるが,ただし,出願人からの請求があり,かつ,当該再発行特許の各々に対する所要の再発行手数料が納付されることを条件とする。

 特許出願に関する本法の規定は,特許の再発行を求める出願に適用されるが,ただし,当該出願が原特許に係るクレームの範囲の拡大を求めない場合は,権利全体の譲受人が再発行の出願をし,それについての宣誓をすることができる。

 原特許の付与から 2 年以内に出願されない限り,原特許のクレーム範囲を拡大する再発行特許は付与されないものとする。

 

 

(判決文) http://www.patentlyo.com/files/10-1262.pdf